「沈黙の臓器」と呼ばれるすい臓。自覚症状が出にくく、すい臓がんの5年生存率はすべてのがんの中で最も低い。生還者たちの貴重な実名証言をお届けする。
「何で僕が……という気持ちでした」。北海道在住の寺澤孝男さん(71)はステージIVのすい臓がんと診断された当時をこう述懐する。
7年前、だるさに加え、お腹と背中の鈍痛が約1か月間、そして約1週間の微熱が続いた寺澤さんは、かかりつけ医を受診し、風邪薬を処方された。
それでも症状が治まらず、再度病院を訪れた。
「血液検査で炎症マーカーのCRP値が40mg/dlと異変が見られ(通常は0.3mg/dl以下)、専門病院を紹介してもらいました。CTスキャンですい臓あたりに影が見つかり、さらに大きな病院を紹介されました。造影剤入りのCTスキャンを行なうと医師から、『2.5センチのすい臓がんが見つかったよ。すぐに入院したほうがいい』と、はっきりと告げられました」(寺澤さん)
寺澤さんは翌日以降の予定をすべてキャンセルし、入院した。MRIやCT、超音波エコーなどの精密検査の結果、血管への浸潤がないステージIVaと判明。手術可能だとわかり、すい臓の右端と十二指腸、胆管を切除する「膵頭十二指腸切除術」を受けた。すい臓がんの発見から手術までの間は10日ほどだった。寺澤さんが振り返る。
「血管にがんが浸潤するステージIVbになる前に発見できたのは不幸中の幸いでした。すい臓がんは進行が早く、すぐに病院を受診せずに1~2か月様子を見ていたら、どうなっていたか。迅速な判断が生死を分けたのかもしれません」
手術後は周辺の臓器にがんが広がっている可能性があるので、それを抑える抗がん剤治療を半年間続け、それからは定期的な検査を続けている。現在までがんの再発と転移はない。
克服できた理由のひとつに、「医師の指示に従ったこと」があると寺澤さんは語る。
「がんが見つかった当初から先生の言うことをしっかり聞き、治療方針に従って検査や手術を受けました。不確実な民間療法には頼らず、サプリメントではなく食べ物からバランスよく栄養を摂ることを心がけています。
そして、僕はくよくよと余計な心配をしない。先生を信頼して前向きに生きる気力を持ち続けたことも回復の要因だと思います」