一方、比較的早い段階で発見できたのが、宮城県在住の中嶋智さん(66)のケースだ。現在は定年後再雇用で仕事に復帰し、第二の人生を歩んでいる中嶋さんはこう振り返る。
「2016年7月、60歳の誕生日直前にすい臓がんが見つかりました。かかりつけ医の血液検査でヘモグロビンA1c値が9.0%と異常値が出たことがきっかけでした(正常値は5.6%未満)」
医師にすい臓の異変を指摘され、紹介された仙台市の東北労災病院での精密検査の結果、約3センチの腫瘍が見つかった。
「検査の翌週、医師からステージIIかIIIだと告知され、手術実績のある東北大学病院に転院しました。勤めていた建設関係の会社を定年退職したタイミングで、子供はもう成人して手がかからなくなっていましたが、私に万一があった場合に残される妻のことが心配でした」(中嶋さん)
告知から2か月半後、膵頭部、十二指腸、胆のうを全摘出し、小腸50センチと胃の5分の1を切除する10時間の大手術を受けた。
「胃や腸への転移はなく、結果的にステージIIでしたが、医師からは『術後の5年生存率は33.5%』だと告げられました。6年経った今も再発や転移はありませんが、“33.5%”という数字が私には余命宣告のように聞こえました。
現在も食事前の血糖値測定とインスリン注射が欠かせませんが、この生活にも慣れました。禁酒禁煙はもちろん、脂肪分や甘いものを控えるなど食生活に気を遣っています」(中嶋さん)
大手術を経た後に再雇用で職場に復帰し、年に1~2度は家族旅行に行けるまでに回復した。
中嶋さんは、生死を分けた要因は「定期検査による早期発見」だったと振り返る。
「私は30代と40代で大腸ポリープの切除手術を2回受けて以降、2年に1度の大腸内視鏡検査と血液検査を欠かしていません。がんを発見したのはその血液検査がきっかけですが、自覚症状が全くなく、定期的な検査を受けていなかったら早期発見は難しかったでしょう。主治医の指示に従って検査を受け続けたことがよかったのだろうと思います」(中嶋さん)
※週刊ポスト2022年9月9日号