【著者インタビュー】牟田都子さん/『文にあたる』/亜紀書房/1760円
【本の内容】
《「校正者は読んでも読んではいけない」といわれます。誤字や脱字、衍字などのいわゆる「誤植」を見つけることを「拾う」、見逃してしまうことを「落とす」といいますが、熟語や文節の単位で読んでいると、誤植があっても気がつきにくい》(「はじめに」より)。1冊の本が読者の手に届くまでには、さまざまな人が関わっているが、その中で《黒子にたとえられるくらい、表に出ない存在》でありながら、《「防災」だというたとえ》がある重要な存在が校正者だ。人気校正者として知られる著者が、どんなことを考えて本と向き合い、本を読むのかを綴ったエッセイ集。本への愛着が増すこと請け合いの一冊。
著者の意図を、どこまで読んでも読みすぎることはない
本や雑誌が世の中に出る前に、「内容の誤りを正し、不足な点を補ったりする」(『大辞林』)のが校正者の仕事だ。近年は校正者が登場するドラマや小説も出てきたが、普段どういう仕事ぶりなのか、なかなか知ることができない。
『文にあたる』は、校正者として「本を読む」ことを仕事にした牟田都子さんの、初めてのエッセイ集である。
これまでに読んできたさまざまな本から引用した、校正について考えるヒントになる文章を手がかりに、思索を深めていく。
「最初はいろんなスタイルで書いてみて、書けるたびに編集者に送っていたんです。ある程度まとまってから、本の引用から始めて考えを広げるやり方が一番書きやすいとわかり、ほかの書き方で書いていたものもこのスタイルに書き直しました。
編集者や出版関係者、いろんな人に会って、話をして、考えて、何かを見つけては書いていったので、書き上げるまでにずいぶん時間がかかりました」
ひとつの文章を入口に、牟田さんの思考の道筋がたどれるので、校正とはどういう仕事なのか、とても伝わりやすい。
校正について書かれた本はほかにもあるが、ベテランの校正者がこれまでの仕事をふりかえる形のものが多く、内容もかなり専門的だ。キャリア15年弱の牟田さんのように、「中堅」といわれる立場の著者が書いた本は珍しい。