医療の世界は日進月歩だが、一部においてはいまだに時代遅れの方法が跋扈している。医療ガバナンス研究所理事長で医師の上昌広さんは、健康診断や自治体で行われる検査の中には、意味がないものも存在すると指摘する。
「肺がんの胸部X線検査と胃がんのバリウム検査がその筆頭です。胸部X線検査では早期の肺がんを発見できないため、受けるのであれば低線量の胸部CT検査がいいといわれています。胃がんも同様で、バリウムよりも内視鏡検査の方が精度が高いうえ、初期の病変ならばその場で切除することもできます。胃がんバリウム検査はX線による被ばくリスクが高く、バリウムが詰まって腸に穴が開くなど合併症が起きることがあります」(上さん)
健康診断においてこれまで常識とされてきたことも、時代が変われば過去のものになる。
「コレステロール値や血圧などの生活習慣病を“一律の数字”で判断するのはもう古い。脳卒中や心筋梗塞になったことがある人は、数値をより厳しく見る必要がありますし、反対に健康な人は緩やかでいい。病歴や年齢など個別に対応することが常識になりつつあります。
メタボの指針とされるBMIも同様です。BMIは体重と身長によって決まるので、脂肪が多い人と筋肉が多い人の見分けがつかない。生活習慣病の数値と同様に、ケースバイケースで考えるべきという捉え方が主流になりつつあります」(上さん)
長く続いてきた健康診断の項目も見直されつつある。秋津医院院長の秋津壽男さんが言う。
「かつて必須だった座高の測定は、意味がないとして廃止されました。また、項目こそあるものの体脂肪率は数日単位で頻繁に測る必要はない。数値だけで体の状態がわかることが常識だった時代は終わりつつあるのです」(秋津さん)
手術や治療をとりまく状況にも大きな変化がある。
「昔は手術後は絶対安静が常識でしたが、すぐに体を動かしてリハビリをするのが最新式。特に高齢者は寝たきりの状態に慣れるとすぐに筋力が落ちるため、“安静は百害あって一利なし”です。
痛み止めの医療用麻薬についての意識も大きく変わりました。昔は中毒になり、寿命を縮めるという理由から医療用麻薬の使用は必要最低限とされていましたが、いまは適切に使用すれば問題ないことがわかっており、特にがんの治療では生活の質を高めるために、早期から積極的に投与されています」(上さん)