2022年4月にJR西日本が、7月にJR東日本が、ローカル線の厳しい経営状況を公表し、衝撃が広がった。それら大赤字の路線と区間の存続問題が現実の問題として浮上している。しかし公共交通機関は、その路線運行の単純なコスパだけで存続か廃止かを決められない。ライターの小川裕夫氏が、JR西日本でもっともコスパが悪い区間への社会実験についてレポートする。
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2020年から感染拡大した新型コロナウイルスの影響や少子高齢化による利用者減、また地方都市ではモータリゼーションが進展しているも鉄道需要を減退させている。このまま手を打たなければ、ローカル線は死滅する。そして、ローカル線の廃止は主要幹線の利用者数にも影響を及ぼすだろう。鉄道が朽ちていくような危機感は多くの自治体が抱えている。
そうした閉塞感が漂う中、10月3日に広島県広島市が芸備線を存続させる取り組みとしてパークアンドライドの社会実験をすると発表した。
「同実験は、芸備線の最寄駅もしくは快速停車駅まで自家用車を使い、そこから列車に乗って通勤する人を対象に駐車場代などを最大で月4000円を補助するものです。これは日常的に芸備線を利用する人を増やすための取り組みですので、通勤者を対象にしています。しかし、自動車を使って通学している大学生もいるかもしれません。その場合は、補助の対象として検討する可能性はあります」と話すのは、広島市道路交通局都市交通部の担当者だ。
芸備線は岡山県新見市の備中神代駅と広島市の広島駅とを結ぶ約159.1キロメートルの路線。パークアンドライドに公的な補助をする取り組みは、これまでにもほかの自治体で試みられている。広島市のような都市圏で、社会実験とはいえパークアンドライドに公的支援が実施されることは珍しい。
担当者が説明したパークアンドライドの社会実験は、芸備線の沿線に位置する広島市・安芸高田市・三次市・庄原市の4市で構成される芸備線対策協議会が需要を喚起する目的で打ち出された。
そうした理由から、広島市の矢賀駅から庄原市の東城駅までが対象区間で、新見市内の駅は対象外となっている。しかし、広島県内の芸備線は広島駅―下深川駅、下深川駅―三次駅、三次駅―備後落合駅、備後落合駅―東城駅で運転本数が大きく異なる。
広島駅から離れれば離れるほど運転本数が少なくなるが、広島駅―三次駅間には快速列車も運転されている。そのため、三次駅―広島駅間は通勤利用もある。
通勤利用もあり、それなりの需要が旺盛でも広島市が芸備線の利用促進を図るのは、今年JR西日本が衝撃的な発表をしたことに起因している。