路線収支を発表した意図
JR西日本につづき、JR東日本までもがローカル線の収支・営業係数を公表したことで赤字路線の存廃議論はヒートアップした。国土交通省は有識者会議を立ち上げて、特定線区の協議を開始する。
特定線区とは、一部の区間に輸送密度が1000人未満を抱える路線を指し、平たく言えば利用者が少なく廃線になる可能性が高い区間といえる。
大都市圏に住んでいると、「利用者が少ない区間は、廃止にしても困らないのではないか?」という思いを抱きやすい。しかし、大都市と大都市を結ぶ路線のなかには、利用者が少ない区間もある。
例えば、日本の大動脈でもある東海道本線は、大垣駅―米原駅間といった利用者が少ない区間も存在する。利用者が少ないからといって同区間を廃止したら、その影響は廃止区間だけにとどまらない。東京―名古屋―京都―大阪―神戸といった大都市は切断される。東海道本線全体に及ぶのだ。
また、一部の区間を廃止してしまうと、貨物列車の運行に支障をきたしてしまう。トラックドライバーが不足している昨今、貨物列車の輸送力をトラックで代替することは容易ではない。物流が滞れば、それは日本全体の問題にもなる。
JR西日本や東日本が路線の収支を公表したことで、蜂の巣をつつくような騒ぎとなった。そうした騒動になることは、JR西日本も東日本も承知の上だっただろう。それでも公表に踏み切ったのは、鉄道事業者の努力だけでローカル線を維持することは不可能と判断したからにほかならない。
鉄道の衰退を止めるには行政の支援、特に沿線自治体の助力は欠かせない。とはいえ、自治体の税収も先細る一方だから、財政的な支出を簡単に受け入れることは難しい。
それでも路線を維持しようと対策を練る自治体はある。今回、芸備線の社会実験を始めると発表した芸備線対策協議会もそのひとつ。それらの自治体が奮起すれば、同様にローカル線への財政的支出を表明する自治体が続出する可能性はある。芸備線の社会実験は、同じようにローカル線廃止問題を抱える自治体に対して奮起を促す起爆剤になる可能性を秘めている。