日本人は遺伝的に、でんぷんを分解するアミラーゼ酵素が多いほか、糖質の代謝を促すインスリンに対する感度が高いという。医学博士で管理栄養士の岩崎真宏さんが言う。
「すい臓からインスリンが分泌されると、糖質が筋肉に取り込まれ、エネルギーとして使われます。日本人は、欧米人と比べて少量のインスリンでも、筋肉が糖を取り込む性質があるため、米などの糖質では太りにくいのです。一方、欧米人が糖質を筋肉に取り込むためには、インスリンを大量に出す必要がある。すると、筋肉だけでなく脂肪細胞も反応してしまい、余った糖が脂肪として蓄えられてしまう」(岩崎さん)
米などの糖質では太りにくい日本人だが、脂質にはめっぽう弱い。見た目はスリムでも、内臓脂肪がたっぷりついた“かくれ肥満”になりやすいという弱点があるのだ。
『日本人の「遺伝子」からみた病気になりにくい体質のつくりかた』などの著書がある内科医の奥田昌子さんが言う。
「“病気のなりやすさ”は、生まれつき遺伝子によって決まっている部分があります。ですが、実際にその病気を発症するかどうかは、その後の後天的な遺伝子変異や生活習慣に左右される。病気のなりやすさという“遺伝子のスイッチ”が入るかどうかは、生まれてきてからの要素が大きいのです」(奥田さん・以下同)
重要なのは、体質に合った生活で“遺伝子のスイッチ”を入れないようにすること。米を食べても太らず、内臓脂肪がつきやすい日本人にぴったりなのは、やはり和食だ。
「内臓脂肪がつきやすい日本人は、動脈硬化も起こしやすい。また、内臓脂肪が増えると胃が圧迫されて逆流性食道炎になりやすくなるほか、食道がんのリスクも上がる。さらに、内臓脂肪が多い人はアルツハイマー型認知症の発症率が3倍にもなるといわれています。いわしやさば、さんまといった青魚のDHAやEPAは、動脈硬化や脳血管性認知症の予防に役立ちます」
流行の糖質制限は、確かにやせることはできるが、日本人には不向き。そもそも「米を食べると太る」という人は、ただ食べすぎているだけかもしれない。
「どんな体質でも、どんな食材でも、食べすぎれば太ります。私たち日本人が気にするべきなのは、お米の糖質よりも、内臓脂肪を直接的に増やす脂質。要注意なのは牛乳です。日本人は欧米人と比べて骨折しにくいため、わざわざ脂質の多い牛乳でカルシウムを摂る必要はありません。それより、小松菜や春菊、豆腐などをみそ汁に入れて飲む方がいい。
同様に、ヨーグルトも脂質が多い。ビフィズス菌や乳酸菌を口から摂取しても、腸内にはほとんど定着しないのです。腸内環境を改善するなら、善玉菌のえさになる食物繊維を摂る方が効果的です」
食物繊維は、“やせ菌”の一種として近年注目されている「アッカーマンシア菌」を増やすのにも役立つ。だが、より“やせ菌”を増やすには、たんぱく質を積極的に摂るのがいい。
「特に、いか、たこ、えび、貝類など、かみごたえがあって消化に時間がかかるたんぱく質ほど、アッカーマンシア菌のえさになるムチンが出やすいことがわかっています」(岩崎さん・以下同)