矢野燿大監督率いる阪神がクライマックスシリーズ(CS)のファーストステージを突破して、ファイナルステージへと駒を進めた。敵地での戦いのなかでDeNAを下し、レギュラーシーズン勝率5割未満ながらCSに出場してファーストステージを突破した5例目のチームとなった。矢野監督の手腕にも、注目が集まっている。
ファーストステージの戦いぶりについて、阪神担当記者はこう話す。
「短期決戦で先手必勝だとばかりに、積極的な采配で最少リードを守り切って勝利しました。代打、代走、守備固めの野手の使い方は、シーズン中には見られなかった積極策が目立った。第3戦ではトミー・ジョン手術を経て7月に1軍に復帰したばかりの才木浩人を先発に起用。投手リレーも柔軟になり、第1戦ではレギュラーシーズンとは違う順番で岩崎優を8回で投げさせ、守護神に持ってきた湯浅京己に回またぎで投げさせてピンチをしのいだ。西純矢を中継ぎに起用した第3戦の継投も見事だった。 こういう野球をレギュラーシーズンでやっていたら、ぶっちぎりの優勝だったのではないかと思わされた」
記者や評論家の間では試合後に「矢野監督って名将なんじゃないか」といった会話も交わされたというが、実際、矢野氏は阪神の監督に就任してからの4年間でリーグ優勝こそないが、3位、2位、2位、3位とBクラス落ちが一度もないのだ。
3年契約を終えた2021年オフに1年契約で続投となったが、今シーズンのキャンプイン前日に「今シーズン限りで退任する」と発言し、シーズンの成績に関係なくユニフォームを脱ぐことになっていた。優勝を逃した責任を取ったわけでもなければ、球団側から退任の流れを作られたわけでもない。手腕をどう評価するのかは難しいところだろう。
そんな矢野氏の監督としての評価を、ヤクルト・阪神・楽天を率いた名将・野村克也氏に聞いたのは、2019年オフのことだ。“ノムさんの教え子”が次々と監督の立場になっていることを受けての本誌・週刊ポストの取材だった。野村氏には「捕手出身者が監督に相応しい」という持論がある。阪神監督時代に野村氏から捕手としての指導を受けた矢野氏は、監督1年目を終えたタイミングだったが、野村氏はこう話していた。
「矢野がいい監督になれる要素はある。日本一監督は捕手出身ばかりだからね。上田利治、森晶祇、そして憚りながら野村克也……。このセオリーをぶち壊したのは田淵幸一と大矢明彦だけど(苦笑)、捕手は現役時代から監督以上のことをやっているからね。野球は筋書きのないドラマというが、筋書きを描いているのは捕手。いろんなデータを駆使し、打者がスイングしたり見逃したりした時の反応を見ながら、観察、洞察、判断、決断の作業を1球ごとにやっていく。この繰り返しによって打ち取るという最終的な答えに導く。だから捕手は脚本家でなければならない。監督になると、無意識のうちの現役時代の経験がベースとなって采配を振るうもの。だから捕手は監督に向いていると言えるんです」