近年、シカやイノシシなどのジビエの流通量が増えている。おいしいだけでなく、鳥獣被害対策や町おこしにもなり、新たなブームが起こりそうだ。だが、ぼたん鍋ももみじのローストも、食べ方を一歩間違えれば病院送りになるかもしれない。口にする前に知っておくべき、ジビエ肉のリスクとは──。
ファストフード店のロッテリアでは、今年4月に引き続き、9月29日から数量限定で、「ジビエ鹿肉バーガー」を提供している。
岩手県大槌町や新潟県阿賀町、神奈川県秦野市の鶴巻温泉、和歌山県古座川町、兵庫県南あわじ市など、ジビエを町おこしに利用するところも増えてきた。いま「ジビエ」がひっそりと注目を集めはじめているのだ。
ジビエとは、狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉を意味するフランス語だ。かつてヨーロッパでは、自分たちで仕留めたシカやイノシシなどの肉を食すことは、貴族の特権だった。現在も、ジビエは高級食材として流通している。
一方、日本では、木の根を掘り起こして果樹園に被害を与えるイノシシや、新芽を食べてしまうシカなど、野生鳥獣による被害への対策としても推奨されている。事実、農林水産省の調べによると、令和2年度の野生鳥獣による農作物被害総額は年間161億円にものぼる。田畑を荒らしている鳥獣は、7割以上をシカ、イノシシ、サルが占めているという。
2014年に厚生労働省は「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針」を作成し、野生鳥獣肉の衛生管理の徹底を呼びかけている。こうした背景もあり、国内のジビエ利用量は右肩上がりだ。
9月22日に公表された調査結果によれば、昨年度の全国のジビエ利用量は2127トンで、前年度から17.5%増加。中でも、シカ肉の利用量は947トンで、前年度比127.5%と激増している。
本来は牛や豚より健康的な食材
日本でのジビエの狩猟シーズンは、11月15日から2月15日の3か月間。この時期に、シカやイノシシ、クマなどの有害鳥獣が捕獲される。
狩猟対象動物はほかにも、ノウサギをはじめ、マガモ、コガモ、オナガガモ、カルガモ、キジ、コジュケイなどが含まれる。都会の害獣といわれるカラスやハクビシンも狩猟対象だ。
ジビエは高級食材というだけではない。実は、栄養価が高く、体にいいこともわかっている。
名古屋学芸大学大学院栄養科学研究科教授で内科医、医学博士の下方浩史さんによれば、ジビエは牛肉や豚肉などと比べると、ヘルシーなダイエット食だという。
「家畜とは違い、野生動物は運動量が圧倒的に多いので、肉が高たんぱく低脂肪かつ低カロリーです。例えば、シカ肉の脂肪分は、牛肉の5分の1で、カロリーも半分ほど」(下方さん・以下同)
下方さんによれば、シカ肉は脂肪の燃焼を助ける働きも期待できるという。
「シカ肉には『L-カルニチン』というアミノ酸が豊富に含まれています。脂肪酸を運搬して、脂肪を燃焼する細胞内のミトコンドリアまで、ムダなく届けてくれる。シカ肉はダイエットの味方と言えます」
一方、イノシシ肉には、鉄分やビタミンB12が豊富だ。
「ビタミンB12には、神経や血液細胞を健康に保つ働きがある。ビタミンB12は豚肉にも豊富ですが、イノシシ肉の含有量はその3倍。そのため、イノシシ肉は疲労回復や貧血予防に役立ちます」
おいしくて太りにくく、体にもいいジビエ。だが、下方さん自身は「すすんでジビエを食べることはない」と話す。
味がよく、健康にもいい高級食材だからこそ、違法に流通させようとする者もいるのだ。間違った方法で食べては、時には命にかかわる事態に陥る恐れもある。