「些細なことでもいいから、不満があるなら言ってほしかった……」
あまりのショックに呆然としている私を慰めてくれた娘に、泣きながらそう訴えると、娘は、
「そんな細かいことまで正直に言ってけんかになるより、言わない方がいいと思ったんじゃない。実際仲よくやっていたんだし、お父さんのやさしさだったのかも」
と、フォローしてくれたのですが……実は夫にやさしさなんて、かけらもなかったのです。
というのも、娘にはさすがに言えませんでしたが、秘密のファイルはもう1つあったんです。それは「ゴルフスコア」と題したエクセルファイル──。
夫は会社のつきあい程度にしかゴルフをしなかったのに、なんだろうと思い、「デスノート」同様のパスワードを入れてみると、運よく開けました。でも「デスノート」以上に、このファイルは開くべきではなかった―なんせそこには、これまでに不倫した女性の一覧が残されていたのです。それも趣味が悪いことに、相手の女性の性格や容姿を採点し、番付化していたのです。「顔9、セックス4、中身8」など……。不倫は私の妊娠中から続けており、亡くなる数か月前まで関係のあった女もいました。その数は39人。しかも、その中には私のママ友までいました。
私は夫を愛していたし、仲がよかったと思っていただけに、あの2つのファイルのせいで、30年におよぶ結婚生活がすべて否定されました。
夫婦って何なんでしょうね‥‥。夫に裏切られた悔しさと、許せない気持ちをどう解消したらいいのかわからず、いまは毎日が地獄です。
(57才・パート)
* * *
「夫の死後に、知られざる本性や裏切りを知ってしまったら、許せない気持ちが芽生えて当然です。しかも、相手が亡くなっているので、責めることすらできないのですから、やり場がない。気持ちは未解決なまま放置していると、何度も思い出して忘れられなくなります。これを“ツァイガルニク効果”といいます」
とは、精神科医の樺沢紫苑さんだ。人間は解決した事柄よりも、途中で挫折したり中断した事柄の方が記憶に残ってしまうのだという。この記憶にとらわれてしまうと、うつにもなりかねない。
「こういったケースでは、夫宛てに手紙を書くのがおすすめ。最初は恨みつらみ、悪口で構いません。でも最後は必ず、夫のいいところや楽しい思い出を書き出し、“ありがとう”という感謝の言葉で締めくくります。心に思っていなくても構いません。とにかく、夫のためではなく、自分のためだと思ってポジティブなことを文字にするのです。このアウトプットにより、気持ちは整理され、落ちついていくはずです」(樺沢さん)
過去と他人は変えられない。自分の心は自分の力で癒し、前向きに歩んでいこう。
【プロフィール】
精神科医・樺沢紫苑さん/メンタル疾患を予防する活動を行っており、YouTubeのチャンネル登録者数は約40万人。著書は、『言語化の魔力』(11月9日発売・幻冬舎)など約40冊ある。
※女性セブン2022年11月3日号