70歳以上の免許保有者は1195万人に達し、年々増加の一途を辿っている(2020年「交通安全白書」)。一方で、高齢ドライバーによる大きな事故はあとを絶たない。となると、家族が車に同乗して運転能力をきちんと見極めることが重要になってくる。
親の運転レベルをチェックし、返納させるべきだと判断したら、次は説得のステップとなるが、焦りは禁物である。
「免許返納のプロセスで重要なのは、時間をかけて準備・説得をすることです。強引に進めると心理的な反発が生じてトラブルになり、その後の説得も聞いてもらえなくなる場合がある」(『免許返納セラピー』の監修者で九州大学大学院教授の志堂寺和則氏)
だからこそまずは家族が協力して、長期的にサポートする体制を作ることが求められる。その過程では、免許返納後の「車のない生活」への備えも重要になる。
「運転をやめたご年配の方が困るのは、買い物と通院です。今は通販が充実しているので試しに一緒に利用してみることで、親にも車でスーパーに行かなくても日用品が揃うことを理解してもらえます。また、タクシーで通院する際のコストを計算し、車を手放したことで浮くガソリン代や維持費を勘案して毎月かかる費用を出してみる。
そうしたお膳立てをしたうえで、買い物や通院で足りない費用は子供が負担することや病院への送迎を申し出るなど、返納後の生活の不安を打ち消すプランを提示し、説得することが大切です」(同前)
そうして説得していくなかでは、運転能力低下を表わす「客観的な証拠」を見せることも有効だ。
高知県で日本初となる「自動車運転外来」を開設した脳神経外科医の朴啓彰医師(愛宕病院・高知検診クリニック脳ドックセンター長)が語る。
「私の病院には免許更新時の認知機能検査に落ちた多くの高齢ドライバーが訪れますが、脳MRI画像を見せて説得する場合もあります。危険運転を引き起こす脳萎縮や血流障害の一種である白質病変は、脳MRI画像に映し出すことができ、明白になる。『まだ運転できる』と主張する方も、これらの画像を見せると納得しやすいので免許返納につながることが多い。
またアクセルやブレーキの操作を記録するドライブレコーダーを設置し、記録した映像を親子で一緒に確認するのも効果的です。左折で路肩に乗り上げたり、車線を間違えたりする場面を繰り返し見ると、それまで頑なだった人も事故のリスクを理解しやすくなる」