一日駅長の松井玲奈さん(手前左)の合図で、JR嬉野温泉駅を出発する西九州新幹線「かもめ」(時事通信フォト)

一日駅長の松井玲奈さん(手前左)の合図で、JR嬉野温泉駅を出発する西九州新幹線「かもめ」(時事通信フォト)

「ランキングの最下位にもならないのが佐賀県ですよ。だいたい45位とか46位とか、その辺が定位置でもはや空気、見向きもされないというのがこれまででした。ライバルと言えばそうですね…その地域にお住まいの皆さんには悪いですが、鳥取とか島根でしょうかね」(黒木さん)

 黒木さんが、ライバルを「島根・鳥取」とするのには理由がある。ランキング最下位の常連だった栃木・群馬・茨城のいずれの県も訪れたことがある黒木さんだが、行く度に地元の人から「田舎でしょう」とか「何にもないですよ」と声をかけられるし、また、同行する東京や大阪の仕事仲間も「この辺は本当に田舎だな」と話しているのを聞いている。しかし、黒木さんの腹の中はこうだ。

「北関東がどんなに田舎でも、コンビニも普通にあるし、公共交通機関を乗り継げば、陸路で比較的簡単に都内にも出られる。私の実家近くは過疎地域で、バスは廃止されタクシー会社も撤退、車で20分ほど行ったところにある鉄道駅は、3時間に1本。正直、みなさんがいう田舎は田舎じゃない。甘いなと思います(笑)」(黒木さん)

 本人にとっては、群馬も栃木も茨城も、東京にも近く十分な大都会。だが、山陰2県だけは「ほぼ同じ、いい勝負」だと感じたというが、実際にこの2県もワースト上位で、最下位になって注目されたこともない。やはり佐賀県人同様に、自虐を通り越した諦観に浸っているのか。

 確かに、ランキング上位でなければ、思い切り下位になって悪目立ちしたい、という気持ちもわからなくないし、発想の転換と言えばそうだ。しかし、近年のこの魅力ランキングを巡っては、下位に甘んじた県の知事がランキング自体に疑問を呈したり、特に今回は茨城が「最下位脱出した」ことが、佐賀県が最下位になったことよりも大きく報じられている向きはある。

 このことについて独自の見解を語るのは、県西部出身で、現在は佐賀県内の自治体職員をしている森永徹さん(仮名・40代)。

「ランキングの存在は知っていましたが、目立ちもせず、触れもされない佐賀には関係のないことだと思っていました(笑)」(森永さん)

 最近の佐賀県は、官民を問わず特に観光誘致に力を入れているようにも見える。アニメや漫画とのコラボレーションを通じて観光客を呼び込んだり、人気のYouTuberやインフルエンサーを招待し、佐賀の魅力を内外に発信すると言った前衛的な取り組みも目立つ。

 だからこそ、そこまでしても「最下位か」という落胆もありそうだが、森永さんは「陰謀論ですけどね」と前おいた上でこう話す。

「下位になった自治体の首長が騒いだり、県民同士がSNS上でいがみ合ったりしてましたけど、佐賀が最下位でも、佐賀県人は文句を言わないです。トラブルを防ぐために、わざと安全パイの佐賀を最下位にしたんじゃなかろうか、なんて職員と笑っていますよ。おとなしいですし、最下位と言われても”だよね”で終わる。うちの母も同じ意見でした」(森永さん)

 ランキングについて「ほどほどに楽しむくらい」が適切であることは、年を追うごとに証明されているような気もするが、そもそも本当に故郷について「田舎だ」と心から思っている人たちは、この「最下位騒動」にそれほど参加していないはずだ。

 佐賀県内を回ってみれば、そこは確かに田舎であり、不便なことも少なくなかったが、だからといって「魅力的でない」とは思えない。食事は何を食べてもレベルが高く、都会では見たり触れたりすることのできない、懐かしい日本の原風景が残っていた。事実、年度別の佐賀県を訪れた観光客数は、コロナ禍を除けばこの数年微増傾向にあった。むしろ、最下位になろうと平然としていられるのは、自分たちだけが知っている地元の魅力を大いに理解しているからなのかもしれない。

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