仕事のミスマッチとは、採用側と求職者側のあいだで認識のズレが起き、働く人が適応できずにギャップを抱えてしまうことを指している。退職理由にもあげられることが多いミスマッチを防ぐには、条件や適性のすりあわせを怠らないのが大事なことのひとつだが、以前は合っていたのに様々な状況の変化で合わなくなることもある。コロナ禍を経て、ミスマッチが急増している仕事の現場について、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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様々な「制限」が解かれ、飲食店や行楽地には大勢の人が押し寄せるようになり、いよいよ終わりが見えてきたコロナ禍。第8波が到来と言われているが、これまでのように閉じこもるばかりではない対応ができそうだと考えている人も多いだろう。リモートワークから出社に切り替わったという会社員も多く、通勤電車も以前のように「満員」であることが増えてきた。しかし、やっと「人出が戻ってきた」場所で働く人々に話を聞くと、ある共通した「悩み」が聞こえてきた。
「時短制限もなくなり、やっと元通りに営業できると喜んでいたんですが」
都内でレストランや和食店を経営する坂本信二さん(仮名・50代)は、自社のスタッフから「不満の声」が相次いでいる事に頭を悩ませている。それは、客足が戻ってきても、社員たちが以前のように働かなくなってしまったから出てきた声だと坂本さんは解釈している。
「お客さんが戻り、急に忙しくなったことで”きつすぎる”とか”給料が低すぎる”と、社員から文句を言われます。正直、コロナで売り上げが落ちていたヒマな時期も、なんとか社員の給与額を維持してきたし、ずっと給与の額は変わっていない。それなのに、忙しくなったから給与を上げろ、はないでしょう。この3年、働いた分以上の給与を渡してきたつもりです」(坂本さん)
今では、以前と同じくらいの客足が戻り、社員の仕事もおおむね元通りにはなったが、以前より「大変になった」はずはないと考えている坂本さんは、「社員にサボり癖がついたのか」と嘆いている。坂本さんの主張だけを聞くと、コロナで遅れをとったぶん、巻き返そうと前のめりになっている経営者に、周囲がついてゆけない一部の職場でだけ起きているのではないか。そんな疑いもわいてくるが、どうやら、それだけではなさそうだ。
閑散としているからと順番にサボっていた
関西地方にある遊園地やホテルを運営するレジャー会社でマネージャーを務める辻川のぞみさん(仮名・40代)も、業種は違うが坂本さんと似たような悩みを抱えている。
「政府の旅行支援などもあり、ホテルや遊園地には多くのお客さんが戻ってきてくれたのですが、閑散期が3年も続いたせいか、社員のモチベーションがなかなか上がらないんです」(辻川さん)
9月の連休には大勢の客が訪れていた遊園地を視察に行った辻川さんだったが、現場に行くと、本来であれば3人いなければならないスタッフが1人しかいなかったという。理由を聞くと「2人は休憩に行った」と、気まずそうに説明を始めたのだ。