「お客さんが少なかった時期も、スタッフの数はできるだけ減らさなかった。社員やスタッフの生活のことを考えた結果だったのですが、その間、スタッフ達は場内が閑散としているのをいいことに、順番にサボっていたんです。サボるといっても、少しタバコを吸いに行くなどではなく、休憩室で何時間もスマホでゲームをしているんです。しかも同じようにサボり癖のついたスタッフがぞろぞろいて、お客さんからも”スタッフが少ない”とか”親切な対応ではない”とクレームまで入っているんです」(辻川さん)
ある日、絶叫マシンの前に客が長蛇の列を作っていたが、チケットを確認するスタッフが、あまりの忙しさから客に舌打ちをしたらしく、客とスタッフが口論を始めトラブルになったこともあった。辻川さんは「もう、サボるな働け、では通じない。この3年間でついたサボり癖を直すのはかなり難しい」と表情を曇らせる。
ただし、客足が戻ったことで以前同様か、それ以上に張り切っているスタッフもいる。「結局は本人のやる気次第かも」という思いもあるが、働かなくなった部下の多くが、コロナ禍直後から上司や管理者と直接的に顔を合わせることがなくなり、あっても「リモート方式」だったことから、コミュニケーション不足が影響している可能性も否定はできないという。
「いまは、バイトの募集をかけてもなかなか来ないし、すぐクビにもできない。せっかく世の中が元通りになってきたのに、お先真っ暗です」
「どうせ客なんか来ないから」
都内在住の雑貨店経営・小路隆夫さん(仮名・40代)は「客足が戻っているかも」と期待を寄せて自身の店を訪ねたところ、休業日でもないのに扉が閉まっていて驚かされた。出勤しているはずのバイトスタッフに電話をかけると、なんと近くのまんが喫茶でグッスリ寝ていたという。慌てて店に戻ってきたバイトは、小路さんに向かってこう吐き捨てた。
「どうせ客なんか来ないから、と悪びれることもなく言うんです。たしかにコロナ禍初期の頃、丸一日店を開けていても客が数人しか来ない日もあり、売り上げが千円程度の日もありました。それでも、給与はしっかり払っていたし、私なりの誠意でした。でも結局、彼らは”サボっても給与は変わらない”と思い込んでいる。大変残念で、本来ならやめて欲しいが、代わりのスタッフもすぐには見つからない。本当に頭が痛い」(小路さん)
「サボる社員・スタッフ」が相次いでいる現場では、また別の「不満の声」も上がっているという。
「以前同様に頑張っているスタッフもいるんですが、彼らは”こんなに頑張っているのに給与が変わらない”と嘆く。いやいや、以前のまんまだし、こちらも苦しいけれど、なんとか給与水準を維持しているんです。頑張るスタッフと、サボり癖がついたスタッフの対立も起きていて、社内の空気までおかしくなりました」(小路さん)
働かなくなった社員やスタッフの存在が、まじめに働く社員のモチベーションを下げ、それが会社や上司への「不満」となり、管理職や経営者に向けられている、ということだろうが、だからといって一方的に働かない者を排除することは倫理的にも法的にも難しい。今後、モチベーションの高い社員の待遇改善、低い社員の減俸などで差別化していきたい、と皆が話すが、以前と同じようなパフォーマンスを社員が取り戻すまでにどれほど時間がかかるのか。また、時間さえかければやる気が復活するのか。経営者や管理職たちの悩みは尽きそうにない。