「やってみなければわからない」が口癖の女性セブンの名物ライター“オバ記者”こと野原広子さんだが、やってみたくないこともある。その筆頭が病気だ。オバ記者が体調に異変を感じたのは、昨年8月。下腹部が膨らみ、重度の倦怠感や尿漏れに悩まされ続けたが、約1年間放っておいた。この夏、意を決して検査を受けたところ、「卵巣がんの疑い」と告げられ、一も二もなく入院、手術。そこで見たこと、感じたこととは。【第2回。第1回から読む】
* * *
手術室に入って真っ先に目に飛び込んできたのは、医療ドラマでおなじみの、巨大な銀色の傘の中に電球がいくつもついている照明。その真下に殺風景な手術台があって、「じゃ、ここに寝てください」と言われた。そうか。自分で靴を脱いでベッドに横になるのね。続いて、医療スタッフ全員がかぶっている青いキャップを、横になった私もかぶせられた。キャップとマスクに顔を覆われ、目だけギロリと出した麻酔医が私の顔をのぞき込む。執刀主治医、看護師、部屋の隅にはそれまで診察してくれた担当女医が真剣な顔で座っている。
私をリラックスさせるためか、麻酔医が「何か注文はありますか?」と聞いてくれたので、「ネットで見たら、目覚めに多幸感を味わえる全身麻酔薬があるそうですね」と言うと、「ありますよ。それにしますか?」「お願いします」―そんな会話を交わした後、「ではふつうに呼吸してくださいね〜」と麻酔用のマスクで鼻と口を覆われたら……あとは…………ZZZ。
「野原さーん、終わりましたよ〜」と、夢うつつの中で話しかけたのは医師か看護師か。
「姉ちゃん、じゃ、帰っから」と弟の疲れた声が聞こえたような気がしたけど、それも現実感がない。それ以上に体が私の人生史上体験したことないほど重たいというか、自分の意識と体がバランバラン。
手術に要する時間は、お腹を開いてみた結果次第で、3コースに分かれることになっていた。「良性腫瘍」ならば2時間、「境界悪性腫瘍」なら6時間、「悪性腫瘍(卵巣がん)」なら8時間かかると説明されていた。
術後、頭が朦朧としている私に担当医が言った。
「境界悪性でした。リンパを切除する必要もなく、抗がん剤の投与もありません。よかったです」
このときの担当医の晴れやかな顔といったらない。それを思い出すと、いまでも私は1秒で泣ける。
担当医もそうだけど、医療スタッフのかたがたが体をケアしようとしてくださった善意は、私がこれまで触れてきたどんな善意とも質が違っていた。純度100%。
「医師も看護師もふつうの仕事じゃない。人のためになろうという気持ちを持ち続けている徳の高い人間が就くんだね」
その言葉を最近ことあるごとに、私は口にしている。
担当医の笑顔にほほえみ返した次の瞬間、私はまた意識が遠のいた。