急激な温度の変化で生じる血圧の変動で、心臓に負担がかかって起こる「ヒートショック」。とりわけ冬はその数が激増。室内でも起こりうるという。ヒートショックを防ぐために、やっておきたいこととは──。
自宅の最大の“危険地帯”は浴室だ。入浴中の急死者は年間1万9000人と推計され、交通事故死の約4倍にものぼる。東京都市大学人間科学部教授で医師の早坂信哉さんが指摘する。
「高齢者2000人以上を対象にした訪問入浴介護に関する調査を行ったところ、入浴中に容体が急変し、呼吸困難に陥ったり意識を失ったりする人は一定数いました。介護者がいるので溺れることはありませんでしたが、意識が戻らずにそのまま亡くなる事例も見られました」
著名人でも風呂場で命を落とす人は少なくなく、晩年まで元気な姿を見せていた俳優の平幹二朗さん(享年82)や元野球監督の野村克也さん(享年84)らも、寒い日の入浴中に亡くなっている。高齢者の健康と生活環境について長年研究を重ねてきた大阪大学人間科学研究科特任研究員の小川まどかさんが言う。
「脱衣所でのヒートショックにも注意してほしい。暖かいリビングから寒い脱衣所に移動して、そこからさらに服を脱いで冷気に肌をさらすと、血圧が急上昇します。
お風呂から出てきた後も要注意。日本は高温浴・全身浴で長風呂をする人が多く、のぼせ上がって体感温度が上がった状態で冷えた脱衣所に戻ると、ふたたび血圧は急上昇します。脱衣所や浴室はあらかじめ暖め、入浴時の温度差を少なくしておくこと。入浴は早めの時間にすることも望ましいです」
過去の事例や研究によれば、入浴前の脱衣時に脳出血、湯船の中に入っているときに脳梗塞や心筋梗塞、ふたたび脱衣所に戻ったときに起立性低血圧が起こりやすいことが明らかになっている。
トイレにもリスクがある。東邦大学名誉教授で医師の東丸貴信さんが指摘する。
「冬場のトイレは肌を冷気にさらすという点で脱衣所と同様にヒートショックのリスクが高い。そうした環境に加え、排便時にいきむことで血圧は40mmHgほど上がります。つまり、もともと高血圧気味で160mmHgの人ならば200mmHgまで上昇することになり、脳出血が起きてもおかしくない状況です。
特に冬は寒さで腸の活動が停滞して便秘になりやすいうえ、コロナ禍の運動不足で慢性的な便秘を抱える人も多い。トイレの危険度は確実に増しています」