1回の入浴で大量の水が失われる
風呂場やトイレで命を落とさないために実践できることはあるか。早坂さんがアドバイスする。
「真っ先に取り組むべきは浴室の温度管理です。まず、脱衣所は20℃以上を保つようにして、リビングとの温度差は5℃以内になるように使用前に暖めておきましょう。タオルなど火事の原因になりやすいものがあるので、壁掛けの暖房器具など安全なものを使ってください。
浴室は、浴室暖房がある場合は必ずスイッチを入れ、脱衣所と同様に20℃くらいを保つこと。暖房がついていない場合は、入浴前にシャワーでお湯を洗い場にかけたり、浴槽のふたを開けたままお湯を入れたりするだけでも浴室全体が暖まります」(早坂さん)
お湯の温度は上げすぎないように注意すべし。
「寒いからといって熱すぎるお湯に入るのは逆効果。入浴前との体感温度の差が大きくなり血圧の急上昇につながります。
お湯の温度は冬でも40℃に保ち、入浴時間は10分程度にすること。長風呂は体温を上げすぎるため危険です。
湯船につかる前はかけ湯をたっぷりして、体をお湯にならしておくことも忘れずに。
入浴で汗をかき、体の水分が失われると血液がドロドロになり、脳梗塞や心筋梗塞の危険が高まります。1回の入浴で体から500mlのペットボトル1本半くらいの水分が失われるといわれているので、お風呂前は少なくともコップ1〜2杯の水を飲むようにしましょう」(早坂さん)
入浴前は家族や周囲に声掛けをしておくと、万が一倒れたときに発見されやすい。
トイレも浴室と同様、寒さを防ぐ工夫が必要だ。
「暖房便座を使って便座を温めるか、便座カバーをつけておしりを冷やさないように気をつけてほしい。トイレに行くときは1枚上着を着て、小型のヒーターなど暖房器具を置くのも手です」(東丸さん)
浴室とトイレのリスクを潰したら、家全体の対策に臨みたい。小川さんはヒートショックの予防に最も大事なのは “住まいの温度のバリアフリー化”だと強調する。
「日本はセントラルヒーティングではなく、部屋ごとに暖房をつける家が大半で、部屋ごとに温度差が出やすい。暖かいリビングから冷えた廊下に出ただけでも一瞬で血圧が変動するため、新聞を取りに外に出たり洗濯物を干すためにベランダに出たときにもヒートショックは起こり得ます。そのためリビングやトイレ、浴室など各部屋に温度計を置いて、客観的に室温を確認することをすすめます。窓を二重サッシにするなど、断熱性の高い家にリフォームするのもいい。カーテンを1枚閉めるだけでも屋外からの冷気を防ぎやすくなります」
最近はガスや電気料金の高騰が著しいため、今年の冬は厚着で寒さをしのごうと考える人も多いだろう。しかし、ヒートショック対策としては間違っている。
「寒い部屋で厚着をしても、血圧の上昇は防げないという研究結果があります。私たちの研究では寒い家に暮らし続けると血圧の上昇が大きくなるが、断熱性のある暖かい家で暮らすと血圧の上昇を抑えられることが明らかになっています」(小川さん)