1年のうち、病院が最も混雑する時期がやって来た。ウイルスや風邪の流行に加え、長期休暇に入る年末年始に備えて、あらかじめ処方薬をもらったり、市販薬を購入しておいたりする人も多い。備えあれば憂いなしだが、医師が直接施す治療とは違い、薬の服用はある意味“自己責任”の世界。のみ方ひとつで、体を壊す毒にもなりうる。あなたは今日、どんな薬をどのくらい、いつどうやってのみましたか──。
いくら病気を治すいい薬でも、しっかり体内に吸収できなければなんの意味もない。薬剤師の三上彰貴子さんは、服用時に適切な量の水分を摂る重要性を指摘する。
「コップ1杯程度(約200ml)の水でのむのが基本ですが、水が手元にない場合は緑茶やウーロン茶などで代用してもほとんどの薬は支障はありません。むしろ外出先などで水がないからといって、唾液でのみ込む方が問題です。胃でしっかり溶けなければ効果が期待できないのです。それどころか解熱鎮痛剤の『アスピリン』など、薬の種類によってはのどや胃粘膜に薬が貼り付いてただれる可能性すらあります」
ただし、一部の薬は水が多すぎると効かない。薬剤師の長澤育弘さんが解説する。
「たとえば糖尿病や肥満の治療に使われる内服薬『セマグルチド』は、胃の内容物が多いと吸収率が低下するため、添付文書には120ml以下の水でのむよう書かれています。特別な指示がある薬は、必ず用法に従ってほしい」
のみづらいからといって薬を半分に割ったり、粉砕したりするのも避けるべし。
「真ん中に線が入っている錠剤は割ってもかまいませんが、それ以外の薬は避けること。特に内側がフィルムコーティングされている場合は、砕くことで強い苦みが出てのみづらくなるうえ、効き目が悪くなる可能性が高い。たとえば腸を刺激して排便を促すタイプの便秘薬は、腸に届くまで成分が溶け出さないようにコーティングされている。割ることでコーティングが溶けて吸収率が落ち、効果が半減します」(三上さん)
希惺会ながたクリニック院長の永田理希さんは、処方薬をストックすることは誤りだと指摘する。
「病院でもらった薬が余っても、その後ふたたび体調を崩したときに自己判断でのむことは避けること。特に抗菌薬はもってのほかです。
そもそも抗菌薬は、医師が細菌による感染症だと診断したときに処方されるもの。原因だと考えられる菌に対して、治療に必要な日数分だけ出すため、のみ残しがあること自体、大きな問題です。病気や原因菌が特定されていないのにもかかわらず、以前の抗菌薬をのむことはデメリットでしかありません」
“フライング”もNGだ。永田さんが続ける。