「僕はアラン・J・パクラ監督の映画が大好きで、敵を監視したり潜入したりする人の抑圧された状況が物凄くセクシーというか、自分を隠し何者かを演じる、その虚構性とスリルにグッとくる。だから、それでいてエンタメ性もある小説を書きたいと思うんです」
動画の男とジャクソンの何が似ているのかと問われ、キャプテンが直言を避ける程度には、現代はポリティカルにコレクトではある。
「だからこそ更新が必要。私はこんな差別発言をされた、だからつらいという従来のルートが、令和版だとこうなりますよって」
認識は改まっても差別はなくならず、水面下に潜りがちなだけに、この痛快で今日的な文学は書かれた。性別や人種以前に、彼らが〈生きてるってこと〉、その手触りがただただ愛おしい快作だ。
【プロフィール】
安堂ホセ(あんどう・ほせ)/1994年東京都生まれ。『文藝』2020年秋季号の特集「覚醒するシスターフッド」に感激し、初小説「赤青坂黄色闇」を第58回文藝賞に応募。最終候補に残るが惜しくも落選。晴れて今年本作で同賞を受賞し、デビューを果たす。元々映画好きで、自ら制作も手がけたが、「1人で気が済むまで作れる表現の方が合っている気がして」シナリオから小説に移行。読書も昔から好きで、川上未映子、金原ひとみ、桐野夏生等、女性作家の作品を愛読。187cm、A型。
構成/橋本紀子 撮影/朝岡吾郎
※週刊ポスト2022年12月16日号