人生100年時代において避けて通ることができないのが“認知症の壁”。65才以上のうち5人に1人が罹患しているとされる恐ろしい国民病だ。しかしその原因が、病気を治療し、症状を抑えるためにのんでいるはずの薬にあるケースは決して少なくないのだ。
しかも、多くの医師が「認知症のリスクが上がる薬」として名前を挙げたのは、総合感冒薬や胃薬、鼻炎薬など市販薬としても購入できる身近なもの。なぜこれらの薬で認知機能が下がるのか。日本初の「薬やめる科」を開設した松田医院和漢堂院長の松田史彦さんが解説する。
「これらの薬が共通して含有する『抗コリン薬』という成分が原因です。アルツハイマー型認知症は、脳の神経伝達物質『アセチルコリン』が減少することが原因の1つと考えられますが、抗コリン薬はアセチルコリンを抑制する作用があります。つまり、副作用によって人工的に認知症の状態が作られるということ。例えば鼻炎薬をのむと眠くなるのは、抗コリン作用でアセチルコリンがブロックされるためです。
若い人なら眠気が出る程度でも、高齢者は認知機能が低下し、転倒のリスクが上がるなど生活に支障が出る。そのうえ抗コリン薬は、過活動膀胱の治療薬、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬など、高齢者が服用する多くの薬にも入っているので、患者が知らない間に“ダブル処方”“トリプル処方”されていることすらあります」
北品川藤クリニックの石原藤樹さんも声を揃える。
「市販薬の風邪薬や胃薬にも抗コリン薬が含まれているため、気がつかないうちに副作用が出ていることがあります。抗コリン薬の危険性は医学界でも再三指摘されており、新しく開発・販売された薬は抗コリン作用を抑える工夫がされているが、古くからあるものは抗コリン作用が強いものも少なくない。比較的新しい薬を選ぶことを推奨します」
ブレインケアクリニック名誉院長で認知症に詳しい今野裕之さんはパーキンソン病の治療薬や気管支拡張薬にも抗コリン作用があると指摘する。
「懸念されるのは、用法用量を守って適切に服用していたとしても、認知症の罹患リスクが上がる可能性があること。イギリスで55才以上を対象に調査した結果、抗コリン薬をのんでいる人はのんでいない人に比べて、最大で約1.5倍、認知症リスクが高まることが示されたのです」
恐ろしいのは認知機能の低下以外の副作用もあることだ。薬剤師の三上彰貴子さんが解説する。
「前立腺肥大の男性の場合、膀胱が緩んで尿道が収縮し、たまった尿が出なくなる尿閉という副作用や、眼圧が上がる副作用も報告されている。特に女性は40代になると眼圧が上がって緑内障になりやすくなりますが、その原因が薬にあるかもしれない。抗コリン薬をのんで、目や頭が痛くなったり、電球の光がにじんで見えたりするようなら、できるだけ早く眼科を受診してください」