国内

【石原慎太郎さんへ最後の手紙】猪瀬直樹氏「日本を頼む」と頭を下げた姿を忘れません

2人でいるときは文学の話に花が咲いた(時事通信フォト)

2人でいるときは文学の話に花が咲いた(時事通信フォト)

 激動の2022年が幕を閉じようとしている。思い返せば今年は政財界や芸能界で多くの著名人がこの世を去った。愛して止まないあなたへ。作家・参院議員の猪瀬直樹氏が石原慎太郎氏(2月1日没、享年89)へ“最後の手紙”をしたためた。

 * * *
 石原慎太郎さん、89歳で天に召されてもう1年近くになるのですね。

 政治家石原慎太郎については、右派の若手議員を集め血判状をつくって「青嵐会」を結成したとか、革新都政で人気の美濃部亮吉に都知事選で挑戦し苦杯をなめたとか、国会議員25年の永年在職議員表彰を区切りに国会議員を辞めたり、再度、都知事選に立候補して当選したり、またその発言はいつも毀誉褒貶で話題を集めてきました。官僚の作文ではなく自分の言葉で忖度なしで語れば、少しぐらい規格品とは違うという意味合いで失言にもなるが、その揚げ足ばかりとる風潮が蔓延してることのほうが問題なのです。

 ポリティカルコレクトネスによる言葉狩りも輪をかけている。政治家は揚げ足をとられないよう「検討します」ばかりの答弁となり具体的な数字や期日は極力言わない。

 日本人は元気がない。政治家の言葉が空疎で、役人の言葉は遠回しで、経営者の言葉にオリジナリティが希薄になっている。それに対し石原慎太郎はずっと「価値紊乱(びんらん)」の人だった。言葉で波風を立てる人、そういう人がいなくなったのは淋しいかぎりです。

 石原さんに隠れた内面があったことはあまり知られていない。フランス語の原書でボードレールを読んでいることを僕は知っている。だから都知事・副知事コンビの二人だけの会話はいつも作家同士の文学の話でした。石原さんは見かけで誤解されているが教養人であり、クリエイターだからこそ、自分の言葉による発信力があるからこそ、永田町や霞が関では浮いてしまうこともあったのでした。

 僕は石原さんから引き継いだ都知事の仕事を心ならずも短期間で辞めることになりました。しばらくして画家で女優の蜷川有紀と婚約したのでそれを伝えるため、田園調布の石原邸を訪問した。

 石原さんは、同伴したフィアンセの蜷川有紀と画家同士であることが嬉しくて、奥の部屋からたくさん絵を持ち出してきた。不登校の時代に描いたシュルレアリスム風の作品を収載した画集、最近になって描いた油絵など、誇らしげにまた無邪気に自慢していたのは昨日のように記憶しています。帰り際、石原さんは真顔になって同じ言葉を三回、繰り返した。

「猪瀬さん、日本を頼む」と玄関でていねいに頭を下げるのでした。

 そして僕はこの夏から参議院議員として日本のために汗を流すことになりました。

関連キーワード

関連記事

トピックス

九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
“鉄ヲタ”で知られる藤井
《関西将棋会館が高槻市に移転》藤井聡太七冠、JR高槻駅“きた西口”の新愛称お披露目式典に登場 駅長帽姿でにっこり、にじみ出る“鉄道愛”
女性セブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン