1月13日に東京地裁で言い渡された判決は、偽計業務妨害で懲役1年執行猶予5年、侮辱罪で拘留29日という検察側が求めた通りだった。その後、期限までに控訴がなかったため刑が確定している。この事件で侮辱罪の被害届を出した松永拓也さんは「ほぼ希望通りで、重く受け止めていただいたと感じている」と判決内容について語った。
2019年4月に起きた東京・池袋暴走事故で妻子を亡くした松永さんは、交通事故をめぐる法やルール整備、事故の再発防止を呼びかけるためにメディアの取材を実名で受け、SNSで情報を発信してきた。応援や共感の声が多く集まったが、誹謗中傷を受けることも増えていた。なかでも2022年3月11日、松永さんのツイッター投稿に対して「金や反響目当てで闘っているようにしか見えませんでした」、さらに妻子の名前をあげて「2人が喜ぶとでも?」などと送られてきたメッセージは、酷く貶めるもので見過ごすことはできなかった。
このメッセージを受け取った翌12日、松永さんは送られてきた内容などを警視庁に伝え、16日に被害届を提出した。
「できることなら人と争うなんてしたくない。ぐっと我慢することもできたが、(妻と子)ふたりを侮辱されたことは我慢できなかったし、社会問題の一助になればと思い、争うことを選択しました」(松永さん)
被害届を受理した警視庁は侮辱容疑で捜査し、メッセージを発信した20代男性を4月に書類送検、6月15日に在宅起訴した。無差別殺傷事件を模倣した投稿で8月に逮捕された偽計業務妨害容疑とあわせて審理され、判決は求刑通り刑法改正前の侮辱罪の法定刑上限だと驚きをもって伝えられた。この厳しい判決は「今後の裁判所の姿勢を表したものと言えるのでは」と誹謗中傷問題に詳しい松坂大輔弁護士が解説する。
「法務省の統計によると、2016(平成28)年~2020(令和2)年までに侮辱罪で拘留が科された件は0件であったようです。本件で拘留が、しかもその上限が処断刑として選択されたということは、今後、類似の事例については懲役刑を選択していくという裁判所の姿勢を表したものといえるのではないでしょうか」
今回の判決は改正法が施行される2022年7月7日より前に起きた事件だったため、拘留の上限は29日だった。現在は、「1年以下の懲役もしくは禁固もしくは30万円以下の罰金又は拘留もしくは科料」と厳しい。厳罰化されたのは、簡単に広まるうえに拡散されると取り消せず、発言するうちに過激化しやすいインターネット上での侮辱行為に対する抑止力を求める声が高まったからだった。