2022年10月、経済的困難を抱える家庭の子どもたちの支援者と懇談する岸田文雄首相(中央)。右から2人目は小倉将信こども政策担当相(時事通信フォト)

2022年10月、経済的困難を抱える家庭の子どもたちの支援者と懇談する岸田文雄首相(中央)。右から2人目は小倉将信こども政策担当相(時事通信フォト)

「うちの親は金のない親だからどうしようかと悩んでます。以前、親が病院に入った時に保証人になって、その請求書に『おむつ代14万円』(2ヶ月分)とあったときは気を失いかけました。幸い2ヶ月で退院できましたが、家族の生活すらギリギリなのに、これからそういう親の問題も来るなら、本当に破綻しかねません」(50代・団体職員)

 おむつ代は基本、健康保険が適用されず実費となる上に病院が自由に金額を決められる(例外あり)。これまた一例とはいえ、「レベルダウン」による生活が怖いのは不意の出費に対応しきれなくなる恐れがあることだ。単身者ならまだ「自分が我慢すれば」だが、家族持ちならそうはいかない。普通に生活しているサラリーマンの「使えるお金が減る」「レベルダウン」もまた、将来的な中間層の減少と将来的な子ども世代への負の引き継ぎになりかねない。2012年の厚生労働白書にはすでに『貧困・格差の現状と分厚い中間層の復活に向けた課題』とあった。2023年、10年以上経っても課題どころか悪化してしまった。

 いわゆる令和版『所得倍増計画』を掲げる岸田首相、2023年の年頭記者会見でも「格差の少ない力強い成長」「物価上昇率超える賃上げの実現」「新しい好循環の起動」を国民に訴えたが、その言葉とは裏腹に国民負担率は増え続け、物価やエネルギー高に対応するはずが増税ばかりとちぐはぐな現状がある。もちろんサラリーマンだけでなく、多くの自営業者や年金者も同じような苦しみを味わっているが、日本は労働者の80%以上がサラリーマン(被雇用者)である。彼らの使えるお金が減ること、中間層の「レベルダウン」はそれこそ岸田首相の目指す「異次元の少子化対策」の足かせともなろう。このままでは「所得倍増」どころか「所得半減」になりかねない。というか「使える金が減っている」という観点だけで言えば、実質そうなっているように思う。

 それにしても、平均賃金が30年間も上がらなかったにも関わらず、本当に「何をするにも今まで以上に金のかかる国」「使えるお金が減り続ける国」になってしまった。もはや猶予はないように思う。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員、出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。

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