ライフ

「赤痢」患者数、関東大震災から1930年代に向けて増加 感染症流行には社会的な背景も

「赤痢」の特徴とは(イラスト/斉藤ヨーコ)

「赤痢」の特徴とは(イラスト/斉藤ヨーコ)

 人間は様々な感染症とともに生きていかなければならない。だからこそ、ウイルスや菌についてもっと知っておきたい──。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、赤痢についてお届けする。

 * * *
 今の日本では昔ほど耳にしなくなりましたが、「赤痢」のお話をしましょう。

 赤痢は腸内細菌である赤痢菌の感染によって起こります。似たような名前で「アメーバ赤痢」がありますが、それとは異なる病気です。

 細菌性赤痢は潜伏期1~3日で発症、悪寒を伴う急激な発熱、水溶性の下痢、腹痛、しぶり腹(便をしたいのに少量の便しか出ない)、血便などの症状が出ます。

 赤痢菌は人の口から入ると、小腸で増殖して大腸の壁の上皮細胞に入り込み、細胞を壊死・脱落させて、膿粘血便などの血性下痢を引き起こします。赤痢菌に汚染された食品や水を経口摂取することで主に感染しますが、悪いことに10~100個の極めて少ない菌数で感染が成立するので、患者や保菌者の糞便、またそれに汚染された手指やハエ、食器などを介して感染する場合もあります。手洗い励行などが必須ですが、家庭内での二次感染が起こりやすく、また小児や高齢者、免疫抑制状態などの人は特に注意が必要です。

 治療は体内から菌の排出を止めないように強い下痢止めは使用せず、乳酸菌やビフィズス菌などの整腸剤と抗菌薬を併用します。そして、スポーツ飲料や経口補水液などで水分を補給し、飲水が難しい場合は点滴などが行なわれます。

 日本の赤痢の流行状況を振り返ると戦後しばらくは患者数が年間10万人を超え、2万人近い死亡者を出した時期もありました。その後、衛生状態の改善に伴って1965年以降からは激減し、近年はアジア地域などの海外から持ち込まれたケースが発生の7割以上を占めています。予防としては、細菌性赤痢が流行している地域に旅行した場合には、生水、氷、生ものの飲食を避けることなどが挙げられます。

 さて、この細菌性赤痢の原稿を書くにあたって、その患者発生数のグラフを「東京府」の報告で1910年代からずっと目で追ってみると1923年以降から顕著にその数が増加に転じていました。1923年は関東大震災が発生した年です。震災で上下水道などの社会インフラが破壊され、衛生状態が劣悪となったことが原因と推定されます。そして、患者数は1930年代の戦時下に向かって急速に増加していたのでした。

関連キーワード

関連記事

トピックス

渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
《会社の暗部が暴露される…》フジテレビが恐れる処分された編成幹部B氏の“暴走” 「法廷での言葉」にも懸念
NEWSポストセブン
週刊ポストの名物企画でもあった「ONK座談会」2003年開催時のスリーショット(撮影/山崎力夫)
《追悼・長嶋茂雄さん》週刊ポストが1年前に託された最後のメッセージ「私の人生は野球に始まり、これからも常に野球とともにあります」
週刊ポスト
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
長嶋茂雄さんとの初対戦の思い出なども振り返る
江夏豊氏が語る長嶋茂雄さんへの思い 1975年オフに持ち上がった巨人へのトレード話に「“たられば”はないが、ミスターと同じチームで野球をやってみたかった」
週刊ポスト
元タクシー運転手の田中敏志容疑者が性的暴行などで逮捕された(右の写真はイメージです)
《泥酔女性客に睡眠薬飲ませ性的暴行か》警視庁逮捕の元タクシー運転手のドラレコに残っていた“明らかに不審な映像”、手口は「『気分が悪そうだね』と水と錠剤を飲ませた」
NEWSポストセブン
金田氏と長嶋氏
《追悼・長嶋茂雄さん》400勝投手・カネやんが明かしていた秘話「一緒に雀卓を囲んだが、あいつはルールを知らなかったんじゃないか…」「初対決は4連続三振じゃなくて5連続三振」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン
「秀才」に突然訪れた“異変”の原因とは(イメージ)
中受で超難関中高一貫校に入学した「秀才」に突然訪れた“異変”の原因とは「腹痛と下痢を繰り返し、成績は最下位クラス…」《エリートたちの発達障害》
NEWSポストセブン
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平が帰宅直後にSNS投稿》真美子さんが「ゆったりニットの部屋着」に込めた“こだわり”と、義母のサポートを受ける“三世代子育て”の居心地
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
NEWSポストセブン