「子どもが大人を見る、認識の変化みたいなものを何年間にわたって書くことができた。私自身、とくに黄美子については、書きながら気づかされることが多かったですね」
はっきりとは書かれていないが、どうやら黄美子には知的機能の障害があり、自分のことを他人に説明できないことなども小説を読むうちにわかってくる。
「黄美子さんみたいな人のことを小説で、あまり読んだことがなくて。アンダーグラウンドで『金のなる木』みたいに思われ、いいように扱われている、自分を弁護する言葉を持たない、なかなか声が届かない人のことも書かなければいけないとも思いました」
連載を本にまとめるにあたって、何度もゲラを読み返し、最後まで手を入れ続けた。小説のラストで、花が黄美子と再会する、初めの出会いと対応するような場面の、2人の会話も書き直した。
「最後の会話だけですけど、だいぶ印象が変わると思います。村上春樹さんの言葉でいう『クローズド・サーキット』から彼女たちは出られたんじゃないかと」
海外にも川上さんの読者は広がっている。『すべて真夜中の恋人たち』は、日本の作品では初めて全米批評家協会賞の小説部門の最終候補になった(発表は3月23日)。『黄色い家』も、日本で本が出る前から、英訳が米・クノップフ社から出版されることが早々と決まった。
「ありがたいことです。翻訳者とはかなり細かくやりとりしますけど、黄美子さんの名前ひとつとっても、ものすごく翻訳者泣かせの小説だと思います(笑い)」
【プロフィール】
川上未映子(かわかみ・みえこ)さん/大阪府生まれ。2008年『乳と卵』で芥川賞、2009年詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で中原中也賞、2010年『ヘヴン』で芸術選奨文部科学大臣新人賞および紫式部文学賞、2013年詩集『水瓶』で高見順賞、同年『愛の夢とか』で谷崎潤一郎賞、2016年『あこがれ』で渡辺淳一文学賞、2019年『夏物語』で毎日出版文化賞を受賞。『夏物語』は40か国以上で翻訳が進み、『ヘヴン』の英訳は2022年国際ブッカー賞の最終候補に選出された。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2023年3月16日号