健康な体で長生きしたい──そのためには薬と上手に付き合う必要がある。健康になるためにのんだはずの薬の副作用で、体の機能が低下してしまう可能性もあるのだ。では、私たちはどう薬とつきあうべきなのか。国際未病ケア医学研究センター長の一石英一郎さんはこう語る。
「高齢者は特に注意が必要です。年を重ねると臓器の機能が低下し、薬の成分が排出されにくくなり、副作用が出やすくなります。長年のんでいて問題がない薬であっても、突然思わぬ副作用が表れることがある。日本では、6剤以上をのむ多剤併用の高齢者の半数近くが、ふらつきや転倒などの副作用を経験しています。
持病や体の衰えによって服用する薬は年をとるごとに増えていく人がほとんどだと思いますが、できるだけ増やさないことも大事です」(一石さん・以下同)
一石さんの患者にも、薬ののみすぎで認知症に似た症状が出た事例があったという。
「ひとり暮らしをしていた74才の女性のケースです。胃腸が悪くてたまに私の外来に来ていましたが、ある日、離れて暮らす娘さんから『母が認知症になり、施設を探しています』と困った様子で連絡がありました」
以前、その女性を診察したときは元気でしっかりしていたため、疑問に思った一石さんはすぐに薬の影響を疑った。
「服用していたのは、降圧剤、鎮痛薬、利尿剤、過活動膀胱の薬、骨粗しょう症の薬など、計6剤です。内科、整形外科、泌尿器科でバラバラに処方されており、お薬手帳も3冊に分かれていたうえ、家族と離れてひとり暮らしをしていたために多剤併用に気がつくのが難しかった。
また、血圧は冬の寒い時期に上昇し、春夏の暖かい時期は下がる傾向にありますが、認知症に似た症状が出たのは、春でした。いつもの降圧剤が効きすぎて、ふらつきや物忘れなど認知機能低下を疑わせる所見が出てしまったのだと推測されます」
最終的に一石さんの判断で処方医とも相談しながら骨粗しょう症と過活動膀胱の薬を中断し、降圧剤も服用量を減らしたところ、すぐに快方に向かったという。
「一歩間違えれば認知症と診断されてさらに薬が増え、高齢者施設に入ってしまうこともある。お薬手帳は1つにまとめておき、様子がおかしいと思ったら薬の副作用を疑うことも大切です」