「身土不二」。人の体と環境はつながっているということを示す仏教の言葉だ。野菜はまさに、大地の栄養をそのまま私たちの体に届けてくれる。だが、その野菜にいま、大きな異変が起きているかもしれない。
野菜に含まれる栄養素がここ数十年で減少し続けているというデータが、世界中で報告されている。2004年、米テキサス大学オースティン校が、1950年と1999年の米農務省の栄養分データを比較し、43種類の作物に含まれる13種の栄養素の変化を記録した結果、たんぱく質やカルシウム、リン、鉄分などの減少が確認された。
2022年1月のオーストラリアの研究では、スイートコーン、赤じゃがいも、カリフラワー、いんげんなどの一部の野菜で1980年と2010年を比較すると、顕著な鉄分含有量の低下があったと報告されている。
この傾向は日本も同様だ。文部科学省の「食品標準成分表」は、戦後の栄養改善のため、食品の栄養成分の基礎的データ集として1950年にまとめられたもの。この初版(1950年版)と最新版(2020年版)を比較すると、多くの野菜で鉄分をはじめとするミネラルやビタミンの減少が見られる。
「緑が薄い」「虫食い」こそ栄養がある証拠
少なくなったとはいえ、野菜には体にとって必要な栄養素が含まれていることは事実だ。立命館大学生命科学部教授の久保幹さんが言う。
「日本の野菜が衛生的で安全なことは確かです。ただ、見た目も味もいいきれいな野菜には、充分な栄養が含まれていない可能性がある。安全ではあるけれど、ただやみくもに食べれば健康につながるわけではない、ということです」
変化したのは、野菜を取り巻く状況だけではない。内科医で『腸と森の「土」を育てる』などの著書がある桐村里紗さんが言う。
「日本人の多くは、加工食品などの食べすぎによって、腸内環境が乱れています。それが恒常化し、腸内細菌の数が激減したり、特定の細菌の数だけが増えたりする『ディスバイオシス』になると、腸内がアルカリ性に傾きます。すると、ミネラルが体内に吸収されにくくなる。野菜のミネラル量が低下している可能性だけでなく、それを食べる私たち日本人の腸にも、問題はあると考えられます」(桐村さん)
つまり、さまざまな要素が複雑にからみ合い、野菜の栄養を打ち消しているといえる。では、いま手に入る野菜の栄養素をできるだけムダなく摂取するには、どうすればいいのだろうか。管理栄養士の麻生れいみさんは「そもそも日本人のほとんどが、充分な量の野菜を食べていない」と指摘する。