買い取り業者から「請求書」
「転勤で、家族で都内から関西に引っ越すことになったんです。東京の家は何十年も住んでいて荷物も多く、引っ越しを機に荷物を減らそうと家族で話し合いました」
兵庫県在住の会社員・中島寛人さん(仮名・40代)は二年前、転勤のため都内から兵庫県に引っ越したが、その際、荷物を減らすためにと呼んだのがいわゆる「買い取り業者」だったと振り返る。
「引っ越し業者について調べていたところ、SNSで不要品の買い取り業者の広告が出てきたんです。引っ越しのついでにちょうどいいなと。100万以上したタンスなどの大型家具セットや、まだ新しい家電製品などもあり、事前に相談したところ、全部で十数万円にはなるだろうという見込みが立ちました。引っ越し代の足しにもなるし、身の回りもサッパリすると思ったんですけど、そうはいきませんでした」(中島さん)
引っ越し当日、新居に持っていく荷物をちょうどトラックに積み終わる頃、買い取り業者が中島さんの元を訪ねてきた。すぐに査定が始まったが、およそ15分後、買い取り業者が中島さんに突きつけたのは、買い取り書や領収書ではなく、なぜか「請求書」だったというのだ。
「買い取り金額は十万ほどで、事前査定よりはすこし安かったのですが、そこには事前に聞いていなかった処分代、というのが含まれていて、これが十数万かかるとなっていました。こっちは売却の現金を受け取るつもりだったので驚いてしまいました」(中島さん)
では売却しない、と言っても、状況がそれを許さない。仮に、売却を諦めて新居に持っていこうにも、トラックにはすでに空きスペースはなく、部屋の契約もまもなく切れてしまうため、荷物を部屋に放置しておく訳にもいかないからだ。結局、選択肢のない中島さんは、買い取りと処分代の差額数万円を業者に支払い、何とか荷物を引き取ってもらったが「詐欺に遭ったようなもの」と、怒りを露わにする。
ここで紹介して2例だが、客に選択肢がないような状態を業者が作り出してしまうパターンといえる。むしろ、そういうシーンを狙っている可能性もあるだろう。また、共にSNS経由の広告を見て依頼した、というのもポイントだ。二人が見た広告は、どちらもSNS上に流れてきたもので、今なら予約ができるとか限定があるとか焦りを誘う文句が書いてあったり、他者に比較し極端に格安であることを強調するものだ。もともとSNSは自分の好みに沿った情報ばかりが流れてくるためエコーチェンバー現象が起きて、世の中とずれていても、それを感じ取りづらい空間だ。そこで見た広告に対しても、冷静に見返せばおかしいと思える部分に気づきにくく、もし別の場面で遭遇したら信用しなかったものも疑わずに頼ってしまう可能性が高い。その心理につけ込む人や業者が存在しているのがSNSの残念な側面でもあるだろう。
余裕を持って引っ越しができる人もいれば、そうでない人も少なくない。余裕のない後者は、こうした業者の格好のターゲットとなる可能性が高いことを、ぜひ覚えておいて欲しい。