1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、改修工事が終わった京都競馬場での春の天皇賞についてお届けする。
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このレースは相性がよく、2002年にマンハッタンカフェ、2013年と2014年にフェノーメノで勝たせてもらいました。17回騎乗してうち11回は掲示板に載っています。長い距離は考えて乗れるし、ミスをしても挽回できるのでどちらかといえば短距離よりも好きでした。
思い出すのは1995年、ステージチャンプに騎乗し、逃げるライスシャワーを「ゴール前でとらえた!」と思い、ハナ差で負けていたのにガッツポーズをしてしまったこと。この翌年秋にバブルガムフェローで初めてGIを勝つのですが、藤沢和雄先生からは「去年の春にもうGIを勝っていると思っていた」といじられました(笑)。
ここ2年は京都競馬場のスタンド改修工事のため阪神競馬場で行なわれていましたが、やはり天皇賞(春)には京都競馬場の所在地にちなんだ「淀の3200m」という言い方が似合いますね。改修後も“名物”の坂はそのままとのこと。他はほとんど平坦なのに3コーナーだけ高低差4.3mの小高い丘があるようなコースです。観客席から見ても、その起伏ははっきりとわかるはずです。
人間だって坂があると、どうやって上ってどうやって下れば楽で、スタミナをいかに残せるか考えますよね。急に加速したり、逆に止まったりすると消耗するでしょう。とにかくこの坂をいかに消耗しないようにクリアするかを考えます。
長い距離を走るときはとにかくリズムが第一です。一定のリズムで走るのが一番、スタミナを温存するためには、スピードの波を作らないことが肝要だと思います。
改修前は坂を下りたところでギュッと曲がるため、滑る馬もいて危ない感じでした。きっちり最短距離を回るのは難しいため、直線の入口でコースの内ラチ沿いがパッと開いて、器用な馬はそこを抜けてくることもありました。新しくなったコースでは、このコーナーがゆるやかになったとのこと。馬によっては下り坂で勢いをつけることができるかもしれない。坂を下りてからの直線は平坦だから、前が止まらないことが多いですね。