捕まること前提で事を起こそうとする者
「著名人がくると、そちらが気になりつい見てしまう。だが警備警護はそれではいけない。だからこそ任務の役割分担と責任の所在確認が重要だ」という。2022年7月8日、奈良市内で遊説中の安部晋三元首相が銃撃された事件でも、地元警察とSPとの役割分担などについて同様のコメントが数多く報じられたが、そもそも選挙警備は通常の警護警備より難しいと聞く。遊説者が不特定多数の聴衆の中に入っていくため、警護対象者と聴衆との間に距離が取れず、明確な線引きができない。聴衆を遠ざけすぎると、選挙結果に影響を与えかねないため、候補者サイドから難色を示されかねないからだ。
それでも万全な警護警備体制を敷けば、それだけリスクは減少する。「捕まりたくない者は警備を厚くすれば諦める」と前出した警察関係者は言うが、「今回のことで、警察に捕まることを前提で事を起こそうとする者を止めることは難しいと改めて思った」とも話す。テロ事件に遭遇後も、テロに屈しない姿勢を貫き、選挙の応援を続けた岸田首相にはネットやメディアで称賛の声も上がったが、その行動を手放しで称賛できないのが現状だという。今回は聴衆から大きなケガ人は出なかったが、警護員は投げ込まれた爆発物を咄嗟に聴衆の方へと蹴っていた。聴衆の中で爆発していたら多くの犠牲が出ていたかもしれない。多くの聴衆が集まる現場では、いつ不測の事態が起きてもおかしくないのだ。
「今の時代、どぶ板選挙だの握手だのより、アメリカのように支援者だけ集めて、屋内集会でもいいのではないだろうか」と警察関係者は語る。立て続けに事件が起き、選挙警備を変えていかなければならない時期が来ている。