ストレスマネジメント専門家の舟木彩乃氏

ストレスマネジメント専門家の舟木彩乃氏

【「把握可能感(だいたいわかった)」に関する質問】
──このような不安な状態はいつまで続くと思いますか? あなたを苦しめている毎日起こる“嫌なこと”の正体は、具体的になんですか?

Aさん「ペアを組んでいる先輩の指示が、気分によってコロコロ変わるんです。先輩の機嫌が悪いと、指示通りに作成した資料を持っていってもやり直しを命じられ、理由を聞いても『忙しいから自分で考えて』と言われます。そのせいで、いつも先輩の顔色をうかがっています。先輩と同じチームでいる限り、この状態は続くと思います」

【「処理可能感(なんとかなる)」に関する質問】
──今のあなたには、どんな助け(人、情報など)が必要ですか? あなたを助けてくれそうな人や情報は見当たりますか?

Aさん「先輩に意見してくれる人に相談がしたいです。そして仕事のことを考えない時間がほしいです……」

【「有意味感(どんなことにも意味がある)」に関する質問】
──あなたが抱えている問題や課題と向き合うことに、意味や価値を感じますか? どんな状態の自分でありたいですか?

Aさん「正直、先輩の顔色を窺いながら仕事をすることに意味を見出すことはできません。仕事の仕方を改善し、能力を伸ばしながら成長していけるような環境に身を置きたいです」

 以上がAさんへの質問とそれに対するAさんの回答です。3つの感覚を使って悩みごとを整理することで、問題点と改善点が少し見えてきました。Aさんの状態は、次のような理由から3つの感覚のすべてが低い状態であることがわかります。

【把握可能感が低い理由】
 Aさんの先輩は、指示が(機嫌によって)変わることから、Aさんはなにを基準にして仕事をしていいかわからず仕事の全体像が見えません。

【処理可能感が低い理由】
 周囲に相談しても、いまだ解決に至っていないためです。また、Aさんにはセルフケアに関する情報が不足しています。

【有意味感が低い理由】
 今の環境では成長できないためです。

 以上を踏まえて、Aさんはどのように対処すればいいか? それもまた、3つの「首尾一貫感覚」が大きなカギを握っているのです。

※舟木彩乃著『過酷な環境でもなお「強い心」を保てた人たちに学ぶ 「首尾一貫感覚」で逆境に強い自分をつくる方法』(河出書房新社刊)より抜粋・再構成

【プロフィール】
舟木彩乃(ふなき・あやの)/ストレスマネジメント専門家。博士(ヒューマン・ケア科学)。筑波大学大学院博士課程修了。ヒューマン・ケア科学専攻長賞受賞。企業人事部や病院勤務(精神科・心療内科)などを経て、現在、株式会社メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長。一般社団法人文理シナジー学会評議員。AIカウンセリングができる「ストレスマネジメント支援システム」を発明(特許取得済み)。国家資格として公認心理師、精神保健福祉士、第1種衛生管理者、キャリアコンサルタントなどを保有。カウンセラーとして約1万人の相談に対応し、中央官庁のメンタルヘルス対策や県庁の研修にも携わる。原著論文に「国会議員秘書のストレスに関する研究」(産業ストレス研究)など複数。Yahoo!ニュース個人オーサーとして「職場の心理学」をテーマにした記事、コメントを発信中。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館新書)がある。

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