小説には、成瀬のことが好きな島崎だけでなく、成瀬に批判的な大貫も対置され、他人の目をいっさい気にしない成瀬も、やがては島崎と出会えたことの幸運に気づく。
高校生になった成瀬は、お笑いの頂点を目指してM—1出場を決め、島崎は相方に指名される。2人の漫才台本はもちろん宮島さんが書いたもので、高校生2人の漫才として絶妙に面白い。
「あまり力を入れると書けないと思ったので、下手でいいやと割り切って書いたら意外と好評で……。追っかけするほどのファンではないけど、M—1は第1回から見ていますし、あとギャグセンスは『こち亀』を読んで蓄積されたと思います。全然、面白いこと言う雰囲気じゃないときにすごい面白いせりふが出てきたりするんですよ」
R—18文学賞の受賞作が好きで、過去の受賞作はほとんど読んできた。
「すぐれた作品を書く先輩たちに、自分も受賞者として名前を連ねることができて本当に光栄だし、うれしかった」と宮島さん。
1年に3作応募できる規定なので、OLの不倫や大学生の恋愛小説でも応募したが、受賞したのはこのパワフルな青春小説だった。
「成瀬は10代の自分に似たところがあるけど、島崎にはまったく似たところがないです。成瀬は、島崎のような友達がいた私なのかもしれません」
10代のころを思い出しながら話しているとき、一瞬、宮島さんが涙ぐむ場面があった。
「10代の気持ちってそのまま覚えてるんですよね。嫌だったこととかも、まざまざと思い出す。そういうところはこの小説に生かされていると思います」
本の帯で、辻村深月さんが「自分が人生のどこかで別れてきた『どこか』や『何か』が共鳴する、いとおしい青春小説」と書いている。
たしかに、読む人それぞれが、自分だけの「何か」を思い出すような、この先も読み継がれるであろう青春小説だ。
【プロフィール】
宮島未奈さん(みやじま・みな)/1983年静岡県富士市生まれ。滋賀県大津市在住。京都大学文学部卒。2018年「二位の君」でコバルト短編小説新人賞を受賞(宮島ムー名義)。2021年「ありがとう西武大津店」で「女による女のためのR−18文学賞」大賞、読者賞、友近賞を受賞。2023年3月、同作を含む『成瀬は天下を取りにいく』を刊行。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2023年5月25日号