かつては、アレルギー対応や高価な食材の代用を目的として作られてきた代替食品。近年では「健康増進やダイエット」「環境にやさしい」「アニマルウェルフェア(動物福祉)」などの観点から世界的に推奨され、新たな代替食品の開発や販売が急ピッチで進んでいる。
そのなかでも、大豆を原材料にして肉そっくりの味や食感を生み出した大豆ミートは一世を風靡し、その後もブームが継続中だ。
最近では、大手食品メーカーが相次いで代替卵を開発。アレルギーに悩む人が多い食材であることや、「物価の優等生」といわれてきたのに昨今の価格の高騰もあり、大きな注目を集めている。代替卵は野菜や豆乳加工品などをベースに作られ、味も見た目も“卵そっくり”で、調理するとふわふわ、とろとろの食感が楽しめると評判。売れ行きも好調のようだ。
そうした代替食品熱が高まっている理由について、国際ジャーナリストで『ルポ 食が壊れる 私たちは何を食べさせられるのか?』著者の堤未果さんはこう話す。
「世界人口が2022年に80億人に達し、2030年には85億人、2050年には90億人を超え100億人に迫ると試算されるなかで、全人類を養うためのたんぱく質が不足することが懸念されており、国連も警告を発しています。
また、牛や豚、鶏などの大量飼育では膨大な温室効果ガスが発生するため、それらを代替食品に置き換えることで、脱炭素、温暖化防止になるといった環境面からも、代替食品が推奨されています」
ベジタリアンやヴィーガンが増加していることに加え、代替肉は植物由来のため脂質が低く、生活習慣病予防にも効果的ということから、健康やダイエットのために取り入れている人も増えている。だが、代替食品は本当に「いいことずくめ」なのか。
大豆ミート、代替卵の“正体”
堤さんは「実は注意が必要です」と警鐘を鳴らす。
「例えば、フェイクミートなどさまざまな呼び方をされている大豆ミートは、2つの面から海外で問題視されています。
ひとつは材料に使用される大豆やとうもろこしの大半が遺伝子組み換えであること。日本に出回っている大豆の約8割はアメリカ産。遺伝子組み替え大豆には必ず除草剤がセットで使われます。ところがこの除草剤は神経毒性が強く、その発がん性をめぐる訴訟が12万5000件以上起こされ、3年前にはメーカーが約1兆1600億円の和解金を支払わされているのです」(堤さん・以下同)
遺伝子組み換え大豆を使用しているかどうかは、「商品パッケージを見れば一目瞭然」と思うかもしれないが、ことはそう簡単ではない。今年4月の「遺伝子組換え表示制度」の一部改正によって、表示基準が大きく変わったことがその要因だ。
これまでは「意図せざる混入」を5%以下に抑えた大豆やとうもろこしについては「遺伝子組み換えでない」などの表示が可能だったが、制度改正によって、4月からは「不検出(混入0%)」でなければ「遺伝子組み換えでない」と表示できなくなった。
「基準が厳密化され、より安心・安全になったと考えたら大間違いです。輸入大豆で『混入0%』を証明することは、現実には不可能。結果的にあらゆる商品から遺伝子組み換え表示がなくなり、見抜くハードルがかなり高くなってしまった。表示がないのが当たり前になることで、消費者が遺伝子組み換えを気に留めなくなっていく可能性もあります」