厚生労働省の調査によれば、70代以上の女性の過半数が降圧剤をのんでいる。しかし都内に住む70代の女性は最近、ある悩みがあるという。
「最近寝起きが悪いし、スーパーのパートタイムの仕事も立ちっぱなしなのが本当にしんどくて。しかも朝、家を出るときには“帰りにドラッグストアで洗剤を買わなきゃ”と思っているのに、いつも忘れて翌朝思い出して……の繰り返しです」
年齢には抗えないと半ばあきらめていたというが、思わぬ出来事が起こった。
「ある日の夜、血圧の薬をのみ忘れてそのまま寝たら、次の日やけにすっきり目覚めて一日元気に動けたんです。洗剤も忘れずに買えました(苦笑)。これってもしかして、具合が悪かったのは薬のせいなんでしょうか?」
こうしたケースは決して珍しくないとナビタスクリニック川崎の内科医・谷本哲也さんは言う。
「降圧剤の服用により、体調に影響が出るケースは少なくありません。確かに高血圧を放置すれば、動脈硬化を招き、脳卒中や心筋梗塞などのリスクを高めますが、降圧剤による副作用も決して無視できないのが現状です。
中でも多いのが“効きすぎる”こと。血圧が急激に下がることで、認知機能の低下や脱力感、ふらつきなどの副作用が生じます。実際に、『年のせいで体力が衰えた』と感じていた人が、降圧剤の服用を中止すると、元気になったという事例もある。年を重ねると肝臓や腎臓の機能が衰え、薬の成分を代謝・排泄する機能が低下するため、高齢者は特に注意が必要です」
降圧剤には体質や持病で相性がある
現在、医療現場で用いられている降圧剤は、カルシウム拮抗剤、利尿薬、ACE阻害薬、ARB(アンジオテンシンIIタイプ1受容体拮抗薬)、β遮断薬、α遮断薬など主に6種類ある。谷本さんによれば、それぞれに体質や持病との「相性」があり、マッチングを間違えると副作用リスクが上昇するという。
「例えば、カルシウム拮抗薬やACE阻害薬、ARB、β遮断薬はどれも血管を広げることで血圧を下げる薬ですが、少しずつ作用の仕方が異なる。ACE阻害薬とARBは、血圧を上昇させるホルモンの伝達物質を遮断して血圧が上がるのを防ぐ仕組みで、β遮断薬は交感神経をリラックスさせて心臓を休ませることで血圧を下げます。
本来ならば患者ごとの特性に応じた薬選びが重要ですが、合わないものが処方されてしまう場合もあり、注意が必要です」(谷本さん・以下同)