結成16年以上の漫才師が集った新・漫才賞レース『THE SECOND』(フジテレビ系)のグランプリファイナルが終わった。結成19年のコンビ・囲碁将棋は惜しくも敗れたが、今大会に懸ける思いを決戦直前にインタビューしていた。『笑い神 M-1、その純情と狂気』の著書があるノンフィクションライター・中村計氏がレポートする。
結成19年目の号泣
〈絶対出ます。〉
囲碁将棋の文田大介は2022年12月22日の午前10時20分、自らのツイッターでTHE SECOND開催のニュースに触れ、そうつぶやいた。
「SNSで出るって宣言したの、僕が最初だったんじゃないですか。かかりまくってるヤツみたいになってましたね」
結成19年の囲碁将棋は身長185センチ同士の長身コンビだ。ネタのオリジナル性が高く、純粋にしゃべりだけで笑わせる、いわゆる本格派の漫才師だ。
どんな大会も、その価値がまだ定まっていない第1回大会は様子見が続出する。相応のキャリアがある者にとっては、メリットよりもリスクのほうが気になるからだ。
囲碁将棋もテレビでの露出は少ないものの「売れていない」わけではない。自前の劇場を多く持つ吉本興業に所属しているため、年間の漫才の舞台数は約800にもなる。何千人もいる吉本芸人の中でもトップクラスだ。
にもかかわらず文田が出場を即決したのは、小学1年生の娘の一言がきっかけだった。
昨年12月18日、家でM-1決勝を眺めていると、娘に「パパ、これに出ないの?」と言われた。文田はそれを娘の挑発であり、願いだと受け止めた。結成15年を過ぎているためすでに出場資格を失っていること、過去13回出場し6回準決勝まで残ったことなどを話そうと思ったが、込み入った話になる気がして、お茶を濁した。
THE SECOND開催のニュースが飛び込んできたのは、その4日後だった。娘の言葉が思い出された。出られるものなら出る──。それが父としてのアンサーだった。文田が思い出す。
「テンション上がり過ぎて、誰にも相談せずに決めてしまいましたね」
文田のつぶやきを携帯でキャッチした相方の根建太一は、そんな相棒の姿に興奮していた。
「僕も気合いが入りました」
M-1を卒業してから3年。根建は、どこかで戦いに飢えていた。
「M-1に出ている後輩を見て、カッコいいな、って思ってましたから。あと、劇場のお客さんって、興味がないと、ちゃんと見てくれない感じがあるんですよ。でもM-1のときは全員がこっちを見てくれていた。あのヒリヒリ感が気持ちよかった。戦闘民族なのかもしれないですね。THE SECONDのノックアウトステージ開幕戦のときも、出て行った瞬間、純粋にお笑いのネタだけを見せてくれよというギラついた感じが客席から伝わってきて、ワクワクしましたね。出だし、豪快に噛みましたけど」