天才子役と呼ばれた俳優たちのその後の人生は様々だ。2011年に人気ドラマ「マルモのおきて」で双子の姉弟を演じて大ブレークした芦田愛菜(18)、鈴木福(18)は現在も俳優業を中心に活躍し、今春に揃って大学に進学した。注目度の高さで言えば、当時はこの2人以上だったと言っても大げさではないだろう。1980年代から90年代にかけて天才子役として、ドラマやミュージカルで活躍した黒田勇樹(41)だ。あれから約30年が経ち、子役時代をどう受け止めているのか。【前後編の後編。前編から読む】
父親はバンドマンで、母親は児童劇団のマネージャー。物心つく前に両親は別れ、母子家庭で育ったという。子役で芸能界での成功を夢見る家庭は、両親が熱心なケースが多いが、黒田家は違ったようだ。
「1歳の時から子供服のモデルなどで活動していましたが、僕の場合は素性を隠していました。母親が芸能界でやらせたくなかったからです。児童劇団のマネージャーという立場で、他のお母さんの目が気になったからでしょう。『あの人の息子ばかり』と言われるとマネージャーの仕事に支障をきたしますから」
人生の転機は5歳に訪れる。NHK大河ドラマ『武田信玄』で、母親の友人が「(信玄の幼少期役)真木蔵人さんの孫役のオーディションで頭数が足りない。勇樹なら絶対に受かる」と母親を説得。オーディションに合格し、信玄の孫・武田信勝役で鮮烈なデビューを飾る。8歳の時には、帝国劇場のミュージカル『オリバー!』で2792倍のオーディションを受けて主役の座を勝ち取る。帝国劇場最年少の主役に気負いはなかったという。
「仕事という感覚でなく、毎日ディズニーランドに行く感じでした。『オリバー!』に限らずですが、当時は自分が出る芝居のすべてのキャストのセリフ、動きが頭に入っていました。例えば、小さい頃からサッカーをしている人はボールを蹴るのが当たり前じゃないですか。どうやって蹴るかは理屈じゃない。僕も台本を覚えようという感覚はなく、頭の中に自然に入っていた。あの人がこうしたら、こう演技しようとかイメージしながら。キャストが不在で代役をやった時も『一番うまい』と言ってもらえました」
この運命は必然だったのかもしれない。幼少期から舞台の世界は身近だった。母親がブティック店でアルバイトしていた時、客で訪れた俳優の陣内孝則から「芝居やるから子供と観に来なよ」と誘われたのが、『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』の舞台だった。黒田は当時2歳。舞台を見た後に母親と楽屋へ行くと、陣内に「おまえ、役者になれよ」と声を掛けられた。その10年後。陣内が主役を務めたドラマ『名探偵 明智小五郎シリーズ』で共演した。「陣内さんと共演した時、(10年前に会ったことを)覚えてくれていました。『オレの手柄だ!』とみんなに言っていて。ありがたかったです」と穏やかな笑みを浮かべる。