「今日は皆さんにしっかりと覚えていただきたいことがあります。メディアなどでよく耳にする『闇バイト』という言葉ですが、その正体は『犯罪バイト』で、特殊詐欺に繋がる犯罪行為です。決して“バイト”ではありません!」
警察庁特別防犯対策監を務める杉良太郎がそう訴えかけると、集まった約500人の中学生の表情が一変。まっすぐに杉を見つめて、真剣な眼差しで話に聞き入った――。
6月17日、都内の世田谷区立世田谷中学校で特殊詐欺についての講習と意見交換会が行われた。
今年に入り、特殊詐欺の被害額は全国で123億円超となり、4月末までで去年の同時期と比べ20億円も以上増えている。「受け子」「出し子」など特殊詐欺の被疑者は6割以上が10~20代の若者とされ(令和4年中/警視庁調べ)、主に大学生や高校生を対象とする講習が、この日は中学生を対象に行われた。
まず壇上に立ったのは、警視庁生活安全総務課の警部補だった。「闇バイトという言葉を知っている人はいますか」と生徒に呼びかけると、「はい」と答えて多くの手が挙がった。「皆さん、今年の1月に世田谷区のお隣の狛江市で強盗殺人事件があったことを知っていると思います」
話が展開すると大きく頷くなど、関心の高さをうかがわせた。そして生徒の興味が引き出されたところで本題へ。
「狛江市の事件は、昨年の秋頃から全国的に発生していた強盗事件と関係していたことがわかりました。強盗事件の実行役はSNS上で『高額バイト』『即日入金』などといった言葉を使って犯人が募集をする、いわゆる“闇バイト”に応募して実行したものだったのです。闇バイトとはこうしたSNSなどを通じて強盗や、詐欺の実行犯を募集する情報のことをいいます」
ここからはスライドを見せながら、データを用いての説明が始まったのだが、そのデータは驚くべきものだった。
・特殊詐欺に関わった被疑者の9割以上が男性。世代別では20代が44.6%、10代が18.9%と若者が多い。
・被疑者の8.4%は学生でそのうち中学生が11.9%。
・10代の犯行理由では「遊ぶお金がほしかった」が58.7%を占める(いずれも令和4年中/警視庁調べ)
など、自分たちと同じ中学生も犯罪行為に加担していることが明らかにされると、グッと身を乗り出して聞き入る生徒の姿も。まさにこの講習の意義はそこにあった。実際に犯行に手を染める高校生や大学生世代だけでなく、その“予備軍”である中学生から、危機意識を共有していくことがテーマでもあった。