それが伝えられると、昭恵氏は一か八かの反撃に出た。自ら吉田氏の後援会長に就任し、「主人がずっと選挙を勝ち抜いてきた地盤。吉田さんにはこの地域でしっかりと頑張っていただきたい」と地盤を譲らない決意を語り、吉田氏とともに「新3区での公認が得られなければ無所属でも林氏と戦う」という姿勢を示した。
最後の望みは「安倍後継」を標榜する岸田首相への直談判だった。
「昭恵夫人は茂木幹事長だけではなく、岸田総理にも会いたいという意向だった。しかし、官邸側からは“日程の調整がつかない”と断わられたようだ。総理にすれば昭恵夫人に泣きつかれて断わればイメージダウンになるから、迷惑という判断でしょう」(安倍派議員)
事実上の“門前払い”をされたのだ。岸田側近もこう言う。
「山口新3区で林外相と吉田氏が戦えば林さんの圧勝に決まっている。総理は昭恵夫人の顔を立てて吉田氏を中国ブロックの比例にしてやったが、夫人の力ではその程度だろう」
昭恵氏から「下関に入れない」と敵視されている林氏も、いまや安倍家や昭恵氏の存在など眼中にないようだ。外国人特派員協会での会見(6月2日)で、「(総理になるために)あと何をしなければいけないか知りたい。知っていたら必ずやるだろう」と、将来の総理への意欲を語っている。
〈“無”に近づく〉
そして林氏の公認が確定的になると、昭恵氏は“味方”からも掌を返された。昭恵氏は安倍元首相と暮らした東京・渋谷区の私邸の所有権を持っておらず、夫の死後、山口・下関にある邸宅を相続したのは本誌・週刊ポスト既報(2023年5月26日号)のとおりだ。いずれは山口を拠点にするとみられている昭恵氏だが、その地元では同情されるどころか、「そんなに安倍家の地盤を守りたければ、昭恵さんが補選に出馬すべきだった」(地元議員)と冷ややかな声があがっている。
ともに戦うはずだった後継者の吉田氏は、ブログで「清和研の皆様、党本部や県連の皆様には心から感謝申し上げます」と比例転出を受け入れることを表明。頼みの綱の安倍派でも、公認が林氏に決まると塩谷会長代理が「次期衆院選で吉田氏が無所属で出馬することはない」と言明して旗を巻いたのだ。