一般財団法人「奈良の鹿愛護会」の板倉誉明さんは、鹿たちの食事事情についてこう説明する。
「奈良公園の鹿は野生動物であり、主食は公園内の芝やドングリなどの木の実。観光客にねだる鹿せんべいは、鹿にとっては“おやつ”です。鹿せんべいの原料は糠と小麦粉のみで砂糖や保存料など、鹿の体に悪いものは含まれていませんが、コロナ前は訪日外国人が増えていたこともあり、“おやつの食べすぎ”になっていたのかもしれません」
記者が奈良公園を訪れたのはコロナが5類に移行して1か月半が経った6月の半ば。観光客の中には訪日外国人も多く、奈良公園の賑わいもコロナ禍前に戻りつつあった。
「今後、観光客が戻ってきた結果、以前のようにおじぎを多くするようになるだろうと予想しており、これからも調査を続けたいと思っています」(上原さん)
あなたがこの夏、訪れるときにはおじぎが“復活”しているかもしれない。ただし、その際には注意してほしいことがあると板倉さんは話す。
「鹿せんべい以外の食べ物を与えるのは鹿がお腹を壊す原因になるので、絶対に与えないでください。
また、子鹿を見かけたときは、近寄らずにそっと離れてほしい。お母さん鹿は母性本能が強く、大切な子鹿を守るために命懸けで攻撃してくることがあるからです。お母さん鹿は子鹿をにおいで判別しているので、子鹿に触って人のにおいがつくと、子育てをしなくなってしまうこともある。そっと見守ってあげてください」
動物たちの生態や行動が変われば、環境はもちろん私たち人間社会にも大きな影響を与える。コロナという脅威がもたらした“異変”が鹿にとって、私たちにとって吉なのか凶なのか見守りたい。
※女性セブン2023年7月13日号