ライフ

ドイツ出身文筆家・マライさんが「拒絶された」と感じる何気ない日本語とは【連載「日本語に分け入ったとき」】

ドイツ出身のマライ・メントラインさん

ドイツ出身のマライ・メントラインさん

 日本語を母語としないながらも、今は流暢でごく自然な日本語で活躍している外国出身者は、どのような道のりを経てそれほどまで日本語に習熟したのか。日本語教師の資格を持つライターの北村浩子氏がたずねていく。今回は、ネットスラングも交えた多彩な日本語で文芸評論からコメンテーターとしてのテレビ出演まで幅広く活躍する、ドイツ出身のマライ・メントラインさんにうかがった。【全4回の第4回】

 * * *

 マライさんはこのインタビューの前に、日本語を学び始めた頃に使っていたテキストや問題集、ノートの画像を送ってくださった。お父様が保存されていたのだという。ひらがなや動詞の活用の練習、難解な言葉を調べた記録など、地道な学習の軌跡がそこにあった。

 今回、わたしはマライさんに見ていただこうと思い、日本語学校で長く使われている定番の教科書『みんなの日本語』を持って行った。「あ、これ有名なやつですよね。知ってます知ってます」とマライさん。動詞の受身形、条件形、敬語などの学習項目が網羅されているものだ。

「中学の頃、ビジネス日本語を習ったって話をさっきしましたけど、途中でいきなり難しくなったことがあったんですよ。『雨に降られた』みたいな例文が突然出てきたんです。『降られた』は、動詞の受身形ですよね。ビジネス日本語だと敬語が欠かせないから、その準備段階として出てきたのかもしれないですけど」

 マライさんの見立てはおそらく正しい。『部長は資料を読まれる』『母に日記を読まれる』のように、尊敬語のフォームと受身形は重なるものがあるからだ。『雨に降られた』のような文は、日本語教育業界では「迷惑の受身」と呼んでいる。

「あ、『迷惑』なんですね。ドイツ語では日本語のそれ、『悲しみの受身』『悲劇の受身』って表現してたと思います。面白いですよね。ドイツ人だったら、雨を主役にして『そいつが私になんかした』って言い方はしないと思うんです。普通に『雨が降って濡れた』くらいの感覚。日本語の表現で似たようなのだと、他には『親に死なれた』『子供に泣かれた』とか。

 迷惑っていえば、『ちょっと』も迷惑を表しますよね。拒絶というか」

 そう、『みんなの日本語』でも、最初のほうで、断りの表現として「ちょっと」が出てくる。コンサートに誘われたというシチュエーションの会話文の中に「金曜日の晩はちょっと……」という一文があり、「ちょっと……」で日本人は、都合が悪い(あるいは断りたい)ことを示す、と教師は教える。ダイレクトに言わないのが日本語の性格でもあると(暗に)伝えるのだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

田村容疑者のSNSにはさmざまな写真が公開されている
「死者のことを真摯に思って反省しているとはいいがたい」田村瑠奈被告の父に“猶予つき判決”も、札幌地裁は証拠隠滅の可能性を指摘【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・最上あいさんが刺傷され亡くなった(左・Xより)
〈オレも愛里なしじゃ生きていけない〉高田馬場刺殺事件・人気ライバー“最上あい”さん(22)と高野健一容疑者の“親密LINE”《裁判資料にあったスクリーンショット》
NEWSポストセブン
体調不良を理由に休養することになったダウンタウンの浜田雅功
《働きづめだった浜田雅功》限界だと見かねた周囲からの“強制”で休養決断か「松本人志が活動再開したときに、フル回転で働きたいからこそ」いましかないタイミング
女性セブン
ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・最上あいさんが刺傷され亡くなった(左・Xより)
《生々しい裁判記録》「3万円返済後に連絡が取れなくなった」女性ライバー“最上あい”さん(22)と高野健一容疑者の出会いから金銭トラブルまでの全真相【高田馬場刺殺事件】
NEWSポストセブン
亀井京子アナが福祉業界にチャレンジ
亀井京子アナが語った「社会福祉業界への新たなチャレンジ」子育てに区切りで気づいた“自分の原点”、過去には「テレ東再就職プラン」も
NEWSポストセブン
渡米した小室圭氏(右)と眞子さん(写真/共同通信社)
「さすがにゆったりすぎる…」眞子さんが小室圭さんとの買い物で着ていたロングコートは5万6000円の北欧の高級ブランド「通販で間違えて買った」可能性
NEWSポストセブン
2023年12月に亡くなった八代亜紀さん
《没後1年のトラブル勃発》八代亜紀さん、“私的写真”が許可なく流出する危機 追悼CDの特典として頒布予告、手がけるレコード会社を直撃
女性セブン
ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・最上あいさんが刺傷され亡くなった(左・知人提供)
「顔中血まみれ、白目で、あまりに酷くて…」女性ライバー“最上あい”さん(22)の“事件動画”の目撃証言と“金銭トラブル”の判決記録【東京・高田馬場で刺殺事件】
NEWSポストセブン
おもてなし計画を立てる大谷翔平(写真/アフロ)
【メジャー開幕戦】大谷翔平、日本凱旋でチームメートをおもてなし計画 選手の家族も参加する“チームディナー”に懇意にしているシェフを招へいか、おすすめスポットのアドバイスも
女性セブン
今も多くの人々の心に刻まれているテレサ・テンさん
【没後30年・秘話発掘】「永遠の憧れ」テレサ・テンさん 小林幸子、片岡鶴太郎らが語った「彼女だけの歌声」「今も歌い継がれる理由」
週刊ポスト
ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・最上あいさんが刺傷され亡くなった(右・知人提供)
《女性ライバー“最上あい”刺殺》「200万円を超える額を貸している」「消費者金融から借金した」高野健一容疑者(42)が供述する被害者・佐藤愛里さん(22)との“金銭トラブル”
NEWSポストセブン
49歳で出産した女優・小松みゆき
49歳で出産した女優・小松みゆき 娘が、母の若い時の写真集を見たいと言い出したら…?「いいよ、と見せます」
NEWSポストセブン