【著者インタビュー】『私はスカーレット』(上・下巻)/小学館/上巻2200円 下巻2090円
【本の内容】
物語はこんなふうに始まる。《私はいわゆる南部美人、というのではないかも。/しとやかで、優雅なことが必要とされる、南部の美人じゃない。/けれどもいったん私に夢中になると、男の人たちはそんなことにまるで気づかなくなる。(中略)男の人の前では、時々まばたきすればよかった。そして、微笑んでエクボをつくる。するとたいていの男の人が、あえぐようにささやくのだ。/「ああ、スカーレット、君はなんて美しいんだろう……」》。
1936年に出版され、翌年ピューリッツァー賞を受賞したマーガレット・ミッチェルの名作『風と共に去りぬ』を、林さんがスカーレットの一人称視点で再構成。激動の時代をあの手この手で逞しく生き抜いたヒロインの姿を、みずみずしい筆致で現代に蘇らせた。
ゲラを読んだら、めちゃくちゃ面白い!と思った
林真理子さんが、不朽の名作『風と共に去りぬ』を、ヒロインのスカーレットの視点から大胆に書き直した。
「本になる前のゲラを読んだら、めちゃくちゃ面白い!と思いました。自分の小説だと、ゲラの段階で読むといろんなことが気になっちゃうけど、この本は読むのが楽しくて、楽しくて。やっぱりすごい小説だなと改めて思いましたね」
取材は日本大学の理事長室で行った。昨年、女性として初めて母校の理事長に就任し、ほぼ毎日出勤する多忙な生活が続いている。
『風と共に去りぬ』の再構成は、もともとは新訳しませんかという依頼だったそうだ。
「鴻巣友季子さん、荒このみさんの新訳も出て、このうえ私がやらなくても、って思ったんですね。しばらく考えて、スカーレットの視点で書き直してみるのはどうだろうって、一人称で再構成する『超訳』を思いついたんです」
『風と共に去りぬ』はマーガレット・ミッチェルの大長篇小説で、ヴィヴィアン・リー主演の映画でも知られる世界的ベストセラーだ。小説の舞台はアメリカ南部のアトランタとその周辺で、奴隷解放の是非をめぐってアメリカ人同士が激しく戦い血を流した南北戦争前後の激動の時代が描かれる。
ヒロインのスカーレット・オハラはアトランタ近郊の「タラ」の農園主の娘。好きだったアシュレが従妹のメラニーと婚約を発表した腹いせに、好きでもないチャールズと電撃的に結婚する。夫が南北戦争で戦死した後は、実家の農園を守ろうと奮闘し、金目当てで妹の許婚者と結婚してしまう。目的のためには手段を選ばず、銃の引き金を引くことも辞さない、型破りなヒロインだ。
スカーレットとアシュレ、アシュレの妻メラニーとの関係と、スカーレットと彼女を愛するレット・バトラーとの恋がからみあう恋愛小説でもある。女は家庭を守るべきとされる南部の伝統に背いてみずから綿花を摘み、製材所の経営に乗り出すスカーレットと、名家の出身なのに戦争のどさくさで金をもうけるレットは、ルールにしばられない、ある意味、似たもの同士だ。たがいに惹かれながらも、会えば憎まれ口をきいて喧嘩してしまう。
ものすごく面白い小説なのに今の若い人にあまり読まれないのは、南北戦争の場面が長すぎたり、戦後のアトランタの経済復興の描写が克明すぎたりすることも理由かもしれない、と編集者から言われたそうだ。
林さんの『私はスカーレット』では、ヒロインの目から見た戦争、彼女が知りえたアトランタの経済状況が描かれるので、読者の理解を損なわない程度に整理され、展開がかなりスピーディーになった。
「ほんとうに血湧き肉躍る小説なんですよね。マーガレット・ミッチェルってすごいストーリーテラーで、あと5分ずれていたら運命が変わっていた、という場面がいっぱい出てきます。アシュレとスカーレットが2人きりで抱き合っているときにインディア(アシュレの妹)たちが来るのがあと5分遅ければ、レットがあと5分長くいて重体のスカーレットのうわごとを聞いていたらと。
すれ違いのドラマではかつて『君の名は』が一世を風靡しましたけど、『君の名は』を書いた菊田一夫も『風と共に去りぬ』が大好きで、劇化しています」