メラニーとスカーレットの関係性はシスターフッド
林さんが『風と共に去りぬ』を初めて読んだのは中学2年のときで、その後すぐ映画も観た。以来、レット・バトラーが、林さんの理想の男性になった。
「あんなに愛して、甘やかしてくれて、セクシーで、お金持ちで、レット・バトラーって永遠ですよね。彼のユーモアのセンスも大好き。ついにスカーレットに結婚を申し込むんだけど、自分の順番が回ってこないうちに、また君が小金持ちと結婚するかもしれないから、って言うの。娘のボニーに対する溺愛ぶりも好きで、彼を超えるヒーローはなかなか出てきません。
スカーレットがレットと結婚して、ふつうなら身も心も彼に、ってなると思うんですけど、そこでレットにのめり込んだら物語が成立しませんからね」
『風と共に去りぬ』を愛するあまり、アメリカ国務省から好きなところを旅行してください、と招待されたとき、林さんが最初に訪ねたのもアトランタだったそうだ。
「小説の出だしの、農園のある南部の美しさが本当にすばらしくて。あの美しい景色の中、スカーレットがハンサムな双子を従えている場面は忘れられません」
自分の魅力と才覚ですべてを手に入れようと奮闘するスカーレットは、林さんの小説のヒロイン像に重なるところがある。ところでスカーレットの恋敵であり、スカーレットを信じ、守り続けるメラニーはどのように映ったのだろう。
「メラニーはじつは腹に一物あるんじゃないかって説もあるみたいですけど、今回、再構成をやってみて、ほんとに何も悪意がないんだなと思いましたね。スカーレットとアシュレのことも、知ってて知らんふりしてるんじゃなくて、2人が抱き合っていたと人から聞かされても信じない。レット・バトラーはメラニーを尊敬していて、『(彼女が)君みたいな女をどうして愛してるのか、俺にはさっぱりわからない』って言うじゃないですか。いまの言葉だと『シスターフッド』? ああいう関係性なんでしょうね」
スカーレットにとって、アシュレは幸せだった少女時代の象徴で、だからこそ、いつまでもあきらめることができなかったのではないか、と林さん。望みどおり彼と結婚できたとしても、生きている世界の違う2人がうまくいかないことは、彼女自身、わかっていただろう。
スカーレットがレットへの愛に気づいたとき、レットは彼女のもとを去ることを決意していた。2人の運命は最後まですれ違うが、小説の結末で、彼女は2人の未来を決してあきらめてはいない。
マーガレット・ミッチェルは続篇を書くことなく1949年に交通事故で急逝した。公募により決まった作家が1991年に発表した続篇『スカーレット』は、作家の森瑤子さんによって翻訳されている。
──今回、再構成を手がけて、林さん自身の手で続きを書きたくなりませんでしたか?
「それはぜんぜん、なかったです。この小説はやっぱりここで完結しているんですよ。こんなに完成された物語に、何かを付け加えたくはならないです」
【プロフィール】
林真理子(はやし・まりこ)/1954年山梨県生まれ。日本大学藝術学部卒。1982年、エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』がベストセラーに。1986年『最終便に間に合えば』『京都まで』で直木賞、1995年『白蓮れんれん』で柴田錬三郎賞、1998年『みんなの秘密』で吉川英治文学賞、2013年『アスクレピオスの愛人』で島清恋愛文学賞を受賞。近著に『李王家の縁談』『奇跡』『成熟スイッチ』『四十雀、跳べ!』など。2018年、紫綬褒章を受章。2020年より日本文藝家協会理事長、2022年7月、日本大学理事長に就任。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2023年7月20日号