女性の約6割が便秘に悩んだ経験があり、その半数は薬の服用経験がある──これは株式会社レッドビジョンが2022年に発表した調査結果だ。女性は男性よりも筋肉量が少ないうえ、ホルモンの影響もあって便秘になりやすい。そんな私たちの強い味方であるはずの便秘薬だが、日本初の「薬やめる科」を開設した松田医院和漢堂院長の松田史彦さんによれば、鎮痛剤と並んで長期服用に伴う弊害に悩む人の数はトップクラスだという。
「たかが便秘で病院に行くのは恥ずかしいし面倒だから薬でなんとかしたいと考える人が多いうえ、便秘薬は手軽にドラッグストアで手に入る。そうした環境が依存を生み出している現実があります。
特にセンナや大黄などが主成分の、腸を刺激して便を出すタイプの『刺激性便秘薬』には気をつけてほしいです。人工的に大腸の蠕動運動を起こして排便を促す薬なので、長期にわたってのんでいれば、耐性ができて効きめが弱くなります。結果的に、服用量が増えていってしまうのです」(松田さん)
便秘外来を開設する松生クリニック院長の松生恒夫さんによれば、精神的に依存してしまった結果、1日に80錠のむ人もいるという。ある刺激性の便秘薬の添付文書には「1日2錠」「大量服用禁止」「1週間服用しても症状がよくならなかったら病院へ」の記載があるにもかかわらずだ。
「そもそも毎日便通がなくても問題ないのに、“明日も出ないかもしれない”という不安から長期にわたってのみ続け、次第に服用量が増えていってしまうのです。1回につき150錠のんでいるという患者もいました。
しかし刺激性の便秘薬を毎日のみ続けると自力で排便できなくなり、腸の機能も低下して便意も消失し、ますます便秘がひどくなり、さらに薬が手放せなくなる“下剤依存症”に陥ります」(松生さん・以下同)
刺激性便秘薬の多用が生むのは薬への依存だけではない。大腸の粘膜に黒いシミができる「大腸メラノーシス」という症状も現れる。
「私が以前勤務していた病院では、慢性便秘で薬をのみ、大腸内視鏡検査を受けた人のうち、3.5%に黒いシミが見られました。ただ腸が黒ずむだけでなく、腸壁が変質し、大腸の機能が低下してさらに働きが悪くなります。そうなるともっと便秘がひどくなり薬を増やさざるを得ないという悪循環に陥ってしまう。便秘が続くと腸内環境も悪化します。たまったガスが胃を圧迫することで、消化機能の低下にもつながります」