腸の調子を整えることで全身を健康に導く「腸活」はブームになって久しく、近年では脳と腸が密接に影響し合う「脳腸相関」がさまざまな研究によって裏付けられている。それは薬による弊害においても同様であり、胃腸薬の長期服用が脳に影響するケースが散見される。京都府在住の主婦・Yさん(42才)が言う。
「数年前から仕事のストレスもあってひどいうつ状態になりました。心療内科に通って薬をもらってもいっこうによくならず、起きて外に出るのもつらくなって、会社を辞めざるを得なくなった。
その後、家で療養するうちに少しずつよくなってきて、そのタイミングで通う病院を変えたら、会社員時代に毎日のんでいた胃薬が原因だった可能性を指摘されたんです。たしかに家にいるようになってからはストレスもなくなってのむ胃薬の量が大幅に減ったのは事実です。薬が原因だとわかると気分も晴れやかになり、来月からは仕事に復帰できるほどに回復しました」
松田医院和漢堂院長の松田史彦さんによれば、Yさんのように胃薬でうつ病を発症するケースは決して珍しくないという。
「CMでも頻繁に宣伝されている代表的な胃薬のH2ブロッカーには、主な副作用として『うつ状態』『全身倦怠感』が報告されているほか、骨髄の働きが悪くなって血液が作り出せなくなる『再生不良性貧血』など、かなり重篤な副作用が報告されています。しかし、医師も患者もまさか胃薬が原因だとは思いも至らないまま、のみ続けているのです」
生理不順やじんましん、筋肉痛などの副作用もある。
「恐ろしいのは、筋肉痛なら“湿布でも貼ろう”と思うし、じんましんが出たら“アレルギーの薬をのもう”と副作用を体の不調ととらえてさらに別の薬で治療しようとしてしまうこと。病院に行っても、薬の副作用を疑う医師はほぼいないし、患者さんも市販薬のことまで報告しません。薬が原因なのにまた不要な薬をのんで、新たな副作用が出るおそれもあるのです」(松田さん)
副作用を病気と勘違いするケースがある一方で、長期にわたってのみ続けた結果、病気を見逃すリスクも生じてくる。銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘さんは、最も警戒すべきは胃がんの兆候を見逃すことだと指摘する。
「胃の不調は胃がんの初期症状ということもあり、薬を気軽にのんでごまかすことで発見が遅れてしまう。痛む日だけ一時的にのむのならいいですが、長引く不調があれば病院で検査を受けるべきです」(長澤さん)