ひとたび読むと、人に「あなたはどう思った?」と聞かずにはいられなくなる──小説『J』(幻冬舎)には85歳の女性と、37歳の妻子ある男性の赤裸々な恋愛模様が綴られる。しかも「J」とは2021年に99歳で亡くなった瀬戸内寂聴さんだという。この衝撃の書はなぜ生まれ、何が綴られているのか。著者の延江浩さんに話を聞いた。
《二人が出会った時、Jは85歳。
数々の話題作を放つベストセラー
作家であり尼僧。
最後の恋の相手は母袋晃平。
IT企業を経営する37歳。》
6月に刊行された『J』には、こんな帯文が付けられている。
《痛切な純愛小説》と銘打たれた本書には、想像だにしなかった男女の営みが赤裸々に描かれているのだ。
「彼女は出家してもなお性愛から逃れられなかった」
著者は、作家・村上春樹さんのラジオ番組『村上RADIO』などを手がけるTOKYO FMの名物プロデューサー延江浩さん。早稲田大学の村上春樹ライブラリーの運営にかかわるほか、小説やノンフィクションなどを執筆する作家の肩書も持つ。
延江さんによると、年の差48歳の純愛を描いたこの作品は実話に基づいているという。《天台宗の尼僧》で《誰もが知る小説家》の「J」とは瀬戸内寂聴さんであり、《彼女にとって最後の情夫だった》IT企業経営者の「母袋」にもモデルが実在する。《妻も子どももいる》既婚者だ。
作中には瀬戸内さんのプロフィールや著作も引用され、Jが瀬戸内さんであると一読してわかるように書かれている。男女の色恋を描き続け、自らも愛に生きた彼女だけに80代のJの性愛が生々しく、作品を手に取った女性たちの感想もさまざまだ。
「女性は閉経したら性というものから少し解放されて、いまよりも楽に、自分の好き勝手に生きていけると思っていたのに、80代でも“めくるめく性の世界”が広がっているなんて……。ショッキングな現実を前に、楽しみよりも恐怖です」(40代)
「好きな相手と触れ合いたい、性行為を通じて心身共に繋がりたい。その欲求は本能的なもので、いくつになっても枯れることがない。それどころか年齢を重ねて新しい性の扉が開いてすらいる。晩年まで性を謳歌する瀬戸内さんの姿にハッとしました」(60代)
延江さんが瀬戸内さんに強い興味を抱いたきっかけは、数年前の寂聴展で見た光景にあったという。
「会場の日本橋高島屋には大変な行列ができ、妙齢の女性で溢れていました。その理由を親しい女性編集者に尋ねたら、彼女たちは己の業を瀬戸内寂聴に見ているのだと。人生でなし得なかったことを寂聴がやってくれたからこそ、そこへ集い、秘めたる業を浄化している。浄化せんと写経までする女性たちの姿が焼き付いています」(延江さん・以下同)