ライフ

池内万平さんインタビュー 父・伊丹十三さんの生活者の一面に光をあてた『伊丹十三の台所』について

父・伊丹十三さん

伊丹十三さんの次男・池内万平さんにインタビュー

 映画監督で俳優、エッセイストでもあった伊丹十三さんが亡くなって26年になる。ゆかりの深い愛媛・松山につくられた伊丹十三記念館では現在、「伊丹十三の 食べたり、呑んだり、作ったり。」展が開催中だ。展覧会に先立ち『伊丹十三の台所』も出版された。料理上手で食いしんぼう、食にも独自の美学があった伊丹さんについて、次男の池内万平さんに聞いた。

「ぼくたち兄弟の子育てのために移り住んだ湯河原の家には、いま兄(俳優の池内万作さん)が住んでいるんですけど、台所のガスレンジの配管が錆びてガスが常に少し漏れている状態でした。ガス屋さんに『爆発しますよ』と言われて新しいものに取り替えまして、古いガスレンジをどうしようかと(記念館を設計した)建築家の中村好文さんに相談したら、『捨てるなんてとんでもない。企画展で使いましょう』と言われ、100キロぐらいあるものを洗浄して、記念館まで運んだんです」

 長身(180センチ)の伊丹さんが選んだガスレンジはアメリカ製のマジックシェフ。同じころ、湯河原の居間で背もたれがわりに使われていた、やはりアメリカ製の古い冷蔵庫も、あまりに電気代がかかるため記念館行きとなった。今回の企画展で、両方展示される。

 鍋や包丁、皿、カトラリーなど一つひとつ選び抜かれた台所まわりの品々の写真が『伊丹十三の台所』にも掲載されている。高価な古伊万里の皿や、黒田辰秋の漆椀なども日常的に食卓にのぼっていた。

「ちっちゃいころは気にしてなかったですけど、いまになって、ずいぶんいいものを使ってたなと思います。もったいないから使わないというのは伊丹さんのポリシーに反するんですね。そのかわり、器を割らないようにしつけられました。シンクに下げる皿を、音がしないようにそっと置くと、『100点、100点』って。褒めて伸ばすタイプで、器が割れたら金継ぎして使ってました」

 ああしろ、こうしろと子どもたちに口うるさく言う人ではなかったが、万平さんはひとり暮らしをするとき、料理を3品、マンツーマンで教わった。麻婆豆腐と簡単カレー、白菜ときくらげの炒めものだ。

「炒めものなら、そうそう変なことにはならないだろうと思ったんでしょう。毎日の料理は宮本さん(母で俳優の宮本信子さん)ですけど、伊丹さんもちゃちゃっといろんなものをつくってくれました。宮本さんは『伊丹さんがつくるのは派手な料理だから印象に残ってずるい。私のお浸しなんて誰も褒めてくれない』って言ってましたね(笑い)」

 フランス料理でも中華でも、完成するころには手際よく洗い物まで終えていた伊丹さんが、若いころはまったく料理をせず、ロンドン滞在中にカレーをつくったのが初めてだったというエピソードが、本に収録されたエッセイに出てくる。

「どこまで本当かわからないです。まったく料理をやったことがない人が、こんなに手際よくカレーをつくれるだろうか。ふつうは『一口大とは?』みたいな感じになると思うんですよ。でもまあ、食べ道楽な人で、イメトレもずっとしてきたでしょうし、本当かもしれません」

 書いてあることが本当だろうかと疑うのは、子どものころの体験による。「するめ」という伊丹さんのエッセイ(『日本世間噺大系』所収)を読んでいたら、「伊丹十三さん」がバイク事故で死んでしまった。どういうことなのか宮本さんに聞きに行ったら、「物書きなんて嘘も書くものだから」と言われ、「そうなのか……」と思ったそうだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

復帰会見をおこなった美川憲一
《車イス姿でリハビリに励み…》歌手・美川憲一、直近で個人事務所の役員に招き入れていた「2人の男性」復帰会見で“終活”にも言及して
NEWSポストセブン
遠藤敬・維新国対委員長に公金還流疑惑(時事通信フォト)
公設秘書給与ピンハネ疑惑の維新・遠藤敬首相補佐官に“新たな疑惑” 秘書の実家の飲食店で「政治資金会食」、高額な上納寄附の“ご褒美”か
週刊ポスト
高市早苗首相(時事通信フォト)
高市早苗首相の「官僚不信」と霞が関の警戒 総務大臣時代の次官更迭での「キツネ憑きのようで怖かった」の逸話から囁かれる懸念
週刊ポスト
男気を発揮している松岡昌宏
《国分騒動に新展開》日テレが急転、怒りの松岡昌宏に謝罪 反感や逆風を避けるための対応か、臨床心理士が注目した“情報の発信者”
NEWSポストセブン
水原受刑者のドラマ化が決定した
《水原一平ドラマ化》決定した“ワイスピ監督”はインスタに「大谷応援投稿の過去」…大谷翔平サイドが恐れる「実名での映像化」と「日本配信の可能性」
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(Instagramより)
「球場では見かけなかった…」山本由伸と“熱愛説”のモデル・Niki、バースデーの席にうつりこんだ“別のスポーツ”の存在【インスタでは圧巻の美脚を披露】
NEWSポストセブン
モンゴル訪問時の写真をご覧になる天皇皇后両陛下(写真/宮内庁提供 ) 
【祝・62才】皇后・雅子さま、幸せあふれる誕生日 ご家族と愛犬が揃った記念写真ほか、気品に満ちたお姿で振り返るバースデー 
女性セブン
村上迦楼羅容疑者(27)のルーツは地元の不良グループだった(読者提供/本人SNS)
《型落ちレクサスと中古ブランドを自慢》トクリュウ指示役・村上迦楼羅(かるら)容疑者の悪事のルーツは「改造バイクに万引き、未成年飲酒…十数人の不良グループ」
NEWSポストセブン
現在は三児の母となり、昨年、8年ぶりに芸能活動に本格復帰した加藤あい
《現在は3児の母》加藤あいが振り返る「めまぐるしかった」CM女王時代 海外生活を経験して気付いた日本の魅力「子育てしやすい良い国です」ようやく手に入れた“心の余裕”
週刊ポスト
熊本県警本部(写真左:時事通信)と林信彦容疑者(53)が勤めていた幼稚園(写真右)
《親族が悲嘆「もう耐えられないんです」》女児へのわいせつ行為で逮捕のベテラン保育士・林信彦容疑者(53)は“2児の父”だった
NEWSポストセブン
リクルート社内の“不正”を告発した社員は解雇後、SNS上で誹謗中傷がやまない状況に
リクルートの“サクラ行為”内部告発者がSNSで誹謗中傷の被害 嫌がらせ投稿の発信源を情報開示した結果は“リクルートが契約する電話番号” 同社の責任が問われる可能性を弁護士が解説
週刊ポスト
上原多香子の近影が友人らのSNSで投稿されていた(写真は本人のSNSより)
《茶髪で缶ビールを片手に》42歳となった上原多香子、沖縄移住から3年“活動休止状態”の現在「事務所のHPから個人のプロフィールは消えて…」
NEWSポストセブン