【著者インタビュー】岩城けいさん/『M』/集英社/1815円
【本の内容】
『Masato』『Matt』に続く「アンドウマサト三部作」の最終篇。父の転勤によって12歳で家族でオーストラリアに移住した安藤真人。姉が東京の高校に通うために帰国し、母が「日本でしか生きていけない」と言って帰り、そしていまは父とも離れて暮らしている。日本人としてのアイデンティティの問題に苦しむ真人は、アルメニア人のアビーから、人形劇団で声の出演をしないかと誘われる。オーストラリアで生まれ、アルメニアに行ったことのないアビーもまたアイデンティティのことで葛藤していた。互いに好意を持ち、近づくにつれ対立もまた深まっていく。2人はどんな未来を選び取るのか。
父の転勤でオーストラリアに移住し、日本に帰らずオーストラリアで生きていくことを選んだ真人が主人公の小説『M』は、『Masato』『Matt』に続く三部作の最終篇である。小学生だった真人もいまでは大学生になり、卒業を前に進路を考える時期を迎えている。
三部作にすると決めたのは、岩城さんが最初の『Masato』を書き終えたときだそうだ。
「言語の壁であるとか異文化理解とか、わかりやすい苦しみは『Masato』で書き終えたなと思ったんですけど、それで終わりではないというのもわかったんですね。その後も、彼の内面の葛藤は果てしなく続くだろう。そのことを書こうと決めていました」(岩城さん・以下同)
あと2作書くと決めはしたが、すぐには取りかかれなかった。
「1作書き終えると本当に空っぽな状態になるので、少し間を空けないと書き続けることができませんでした。その間は、他の作品を書いていましたね」
『M』の真人は英語での会話に不自由することはないが、「自由に話せるようになったぶん、自由に考えられなくなった。言葉で考えるのではなく、言葉に考えさせられるようになった」と気づき、改めて自分自身に向き合う。
そんな真人が新たに出会うのが、同世代のアビーという女性だ。アビーは工業デザイナーの卵で、マリオネットをつくっている。真人の小学生以来の友人ジェイクの結婚式で彼を見かけ、人形劇をやらないかと誘う。