日本語は「感動」を伝えやすい
ラウラさんはこの日、フィンランドのブランド、マリメッコのブラウスを着てきてくださった。鮮やかな色と一目で分かるデザインが特徴のマリメッコは、日本でも愛用者が多い。フィンランドと聞いて、サウナや白夜、ムーミンなどと共に、日本人が真っ先に思い浮かべるアイテムのひとつだ。
「北部フィンランドはトナカイ業も盛んなんですよ。肉も骨も皮も無駄なく、全部使います。今日してきた時計のバンド部分はトナカイの革です。かばんとか靴を作る時に余った部分を、こうやって小物にしているんですよね。
トナカイの肉は、国によって食べ方が違うんですけど、フィンランドではひき肉にしてオーブンで焼いて、マッシュポテトの上にのせて食べることが多いかな。リンゴンベリーっていう酸っぱいベリーのジャムをかけて、スプーンですくって食べる感じです。日本人の友人たちからもとても好評なんですよ」
こういう話を聞くのはとても楽しい。フィンランド語についても聞いてみよう。
「名詞や形容詞の格変化がすごく多くて、文法は難しいんじゃないかと思います。ただ、上下関係によって使い分けたりはしないから、みんなに平等に同じ言葉を使えるという面はありますね。
フィンランド人って、謙虚というか、自分が感じていることを表現するのがあまり得意じゃないんですよ。心の中に持ってるだけ。『愛してます』は絶対に言わないし、『好きです』も、『おいしい』『かわいい』もほとんど言わない。
私はもう日本慣れしているから、それがすごく物足りなくて(笑)。日本語で気兼ねなく、思ったらいつでも『おいしい』『かわいい』が言えるのが気持ちいい。何かに感動したとか、心動かされたことを表現する時は、日本語のほうが断然言いやすいです。わくわくした! 楽しかった! みたいなことをフィンランド語で言おうとすると、ちょっとうわべの人間っぽくなっちゃうというか、真面目じゃない感じになっちゃう。でも、サウナにまつわる言葉とか、『フィンランドの文化の中にある気持ち』は、フィンランド語で表現するのがやっぱり一番しっくりきますね」
自国の文化を日本語や英語で紹介する仕事をされているラウラさんにとって、言語と言語の間を行き来する感覚はどんなものなのだろう。
「フィンランドでは9歳から英語を学ぶんですけど、フィンランド語と英語の両方が書かれている教科書で勉強するから、英語を使う時は頭の中で一旦翻訳します。いまだにちょっと疲れますね。日本語は日本語だけで学んだから、そのまま出てくる。
フィンランド語や日本語を使う時は、本当の自分が話している感覚があるんですよ。夢も日本語で見るし、日本に12年住んでいるので、相手の反応がある程度予測できる、腹に落ちているという面も大きいかもしれません」