「主人公が小説家で、その本を書く人間が本を食べることで作品の内側の世界に入りこみ、どっちが現実で虚構かもわからなくなっていくところなんかは、本書全体のプロローグとしても読めるかもしれません。

 そうやって人間が何かを食べたり読んだりするのも改めて考えると結構気味の悪い行為に思えてくるし、第6話の『髪禍』なんかは子供の頃、お風呂場とかで母親に髪を切ってもらって、自分の髪の毛なのに気持ち悪いなあと思いながら掃除させられた僕自身の生理的嫌悪感が反映されている。

 あと、『農場』の鼻についても、当たり前ですが鼻を削がれるのってみんな、凄くイヤじゃないですか? でも1個だと物足りないし、削がれた鼻がたくさん畑に植わっているイメージから話を組み立ててみたりとか、目も人の身体の中でわりと異質な器官だよなあとか、かなり自分の生理的感覚がベースにはなっている。

 それを今回は禍が次々に伝播するゾンビ・パニック映画風に料理しようとか、美術館の裸婦展に行こうとしたら電車で裸の男が現われて騒動になる最終話は、元々の発想がバカバカしすぎてバッドエンドにはできないなとか、バリエーションは工夫したつもりです」

何回も書き直して濃度や密度を増す

 目も耳も鼻も、あるいは〈お隣、よろしいですか〉と会社帰りのバスの中である太目な女性と隣席して以来、その肉が迫ってくる感触が忘れられない痩せ型の妻を持つ男の話(「柔らかなところへ帰る」)も、素材自体はごく身近にあるものだ。

「それこそ僕は、外出先でも安心して入れるトイレ問題みたいなよくある話から、最終的には『こんなんありえへん』と思うような非日常的な景色の中に、主人公と読者を連れていきたいと常々思っているんですね。

 その非日常性を際立たせるためにも物語を卑近なところから始め、これはまあ僕自身がその方が感情移入しやすいからではあるんですが、主人公にいろいろと不満や劣等感や不遇な状況を抱えさせた上で、思いがけない世界に連れ出すことを、毎回めざしています」

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