小田作品は改行が少なく、字面がぎっしり詰まっていることも、一つの特徴だ。
「それも僕自身の好み以上に、そういう濃密な文体で書くことで、読者の脳裏に広がる光景も濃密になるんじゃないかって、どこかで思っているからなんです。実際、今はパソコンだからできるんですけど、何回も同じ部分に戻って書き直し、また戻ることを繰り返すうちに、文章が濃度や密度を増していく感じはあって、ありえへん話だからこそ、密度が必要なんだと思う。
まあ今回はエレベーターの中でお尻を丸出しにする女性(『食書』)とか丸裸の群衆(『裸婦と裸夫』)とか、エログロ的な絵面も多く、映倫的理由で映像化不可能だったりしますけどね(笑)。そもそもこんな世界はどこにも実在しませんし、映像の方が直接的で消費者には届きやすいんだろうなとは思いながらも、小説にしか書けないものを常に書いていきたいという気持ちは、これでも強いつもりです」
そのあたりが令和屈指の物語職人と呼ばれる所以か。ともかくこの没入感溢れる語りに身を任せ、どこまでも運ばれていきたくなる、贅沢にして物騒極まりない〈悪魔的絶品集〉である。
【プロフィール】
小田雅久仁(おだ・まさくに)/1974年仙台市生まれ。6歳の時、関西に転居し、現在も大阪府豊中市在住。関西大学法学部政治学科卒業後、損害保険の鑑定人等を経て、2009年『増大派に告ぐ』で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。2013年『本にだって雄と雌があります』で第3回Twitter文学賞国内編第1位。また2021年刊行の『残月記』で第43回吉川英治文学新人賞と第43回日本SF大賞をW受賞し、本屋大賞第7位に選ばれるなど、目下注目の物語職人。166cm、57kg、O型。
構成/橋本紀子 撮影/朝岡吾郎
※週刊ポスト2023年8月11日号